巨獣
リボルバーを取り出した弾は何もない場所に向けて銃を構える。
片手で被っている黒い帽子を押さえて、狙いを定めるかのように目を凝らしている。
埜々は一体何が起こるのかと弾が銃を向けている方向を警戒するが、まだ何も起こっていないように見える。
「あのビルとビルの間に強力な魔力反応がこれから発生する。僕の合図と共に君の魔術を発動させてくれ」
「わ、わかりました!」
正直埜々は半信半疑だった。
これからわかると予測されていても、実際にそれが起きなければ大抵の人は実感がわからないだろう。
しかし、そんな埜々に構わず、弾は銃の狙いを定め終えた。
「いくよ。3、2、1、今だ!」
弾の声と共に銃声が鳴り響く。
放たれた弾丸は普通の実弾ではない。
魔術で作られた魔弾だ。
弾の銃から放たれた魔弾はレーザーのように空を割いて行く。
埜々も弾の声に合わせて咄嗟に魔術を放つ。
埜々の持つ最速の魔術「瞬光(クイックライト)」だ。
いくつもの小さな光が螺旋を描きながら、埜々の手の平に現れた魔法陣から、弾が銃を向けた方向へ放つ。
すると同時に黒い穴が現れた。
魔獣が出現する際に現れる暗黒とでも呼べばいいのだろうか。
まるで時空を裂くようにしてその姿をあらわにする。
この間、埜々が学校の校庭で戦ったトロールの巨大版だ。
埜々は、いや弾もその魔獣の大きさに驚いた。
魔獣のすぐ近くに建っている10階建てのビルより一回り大きいほどのデカさだ。
2人の放った一撃は魔獣に見事的中した。
しかし、それらは致命傷を与えるには火力が足りず、巨体の魔獣からすれば蚊に刺された程度にしか思われていないだろう。
「ほ、本当に魔獣が出てきた!?」
「やだなあ、信用してなかったのかい?」
「あ、いや、そういうわけじゃ!」
「やだなあ、冗談冗談。けど、思ったよりでかいねあれは。意外だったよ正直」
けどなぜ、魔獣が来ることを予見できたのか。
埜々は気になったが、それどころではない。
あんな巨獣に暴れられたら街一つ消えかねない。
「もう1発叩き込んだ方が良さそうだ。行けそうかい埜々ちゃん」
「はい、大丈夫です!」
「じゃあ僕もこの弾丸を使おうか」
何もない手のひらの上に、白い弾丸が6個生成される。
それはまるで錬金術かのようだ。
その弾丸を再装填し、再び銃口を巨大な魔獣に向ける。
「もう一度同時攻撃だ。埜々ちゃんは頭を狙ってくれ」
「はい!」
埜々は巨大な魔法陣を目の前に展開させる。
「謳え!星光る七つの流星よ!」
埜々が詠唱を始める。
光魔術「スターダストレイ」の詠唱だ。
詠唱を終え、七色の球体が埜々の周りに展開される。
「いつでもいけます!」
「3、2、1、今だ!」
先程とは違う重く猛々しい無数の閃光が魔獣を襲う。
しかし、その魔術は突如として現れた黒い炎に遮られた。
埜々の魔術は真正面に防がれ、弾の魔弾は弾丸が上方向に弾き飛ばされた。
「なに!?」
「おいおい、あれを消されると俺らが困るんだよなあ」
埜々と弾の背後に金髪の男が1人立っていた。
幽霊のごとく現れたその男はあたかも眠そうに大きなあくびをする。
埜々と弾は急いでその男と距離を取る。
「なっ一体どこから!?」
「なるほど、支部長達のお考えは見事的中って事か」
「それじゃあこの人がこの騒動の・・・!」
2人はこの男が先程の黒炎を発生させたと直感的に理解した。
やる気のなさそうな態度とは裏腹に、背筋が凍るほどの殺気をばらまいているのだから。
「おっと、全部俺のせいにされちゃたまったもんじゃ・・・」
弾は話を遮るように、男に向かい弾丸を放つ。
しかし、それは男に命中することなく、黒炎に弾かれてしまった。
「まだ話の途中だろ?別にあんたらがなにもしないなら俺も大人しくしてるからさ。余計なことしないでくれる?」
「それは無理な相談だな。僕らも仕事なんでね」
「はあ、あんまり乗り気じゃないけど少し痛い目見てもらおうか」
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