冠位と冠位



セントラルタワーの屋上。

以前康太とヴォイドが戦ったあの場所は現在立ち入り禁止となっている。

そんな場所に魔法省の実質的最高戦力と言える冠位の10人(グランドマスター)の2人がそこにいた。

「いやあ、まさか作戦の柱とは聞いてはいたけど、まさか一日中ここにいなきゃならないってのは辛いなあ。僕の力があっても奴さんが来てくれるつもりじゃないとただの無駄骨なんだけどなあ」


弾は大きなため息をつきながら自身のスマートフォンでアプリゲームをしている。

そんな弾とは少し離れたところでもう1人の冠位、神草埜々は双眼鏡を使い辺りを見渡している。


「あの、今回の作戦うまく行くと思いますか?」

「僕の見立てでは8割成功するとは思ってるよ。まあ、予想外が二つ以上来たら失敗すると思うけど」

「予想外って?」

「それは僕にも分からないさ。予想外なんだから」


2人はあの会議の後この場所に連れて来れられてひたすら警備にあたっている。

由美子から下された作戦は簡単だ。

弾は魔獣の出現場所を予測できる魔術を扱える。

故に、何処から現れるか分からない魔獣を相手にしても、限定的ではあるが先手を取ることができる。

その魔術の詳細はその会議では告げられなかったが、由美子が全責任を持つと言い放ったのだ。

誰も意を唱えることもなかった。

広範囲に展開できる魔術を持つ埜々と同じく広範囲の魔術を扱えるらしい弾が組んで、セントラルタワーの屋上から狙い撃ちをするという作戦だ。

最高火力かつ最高戦力とされる冠位2人を軸に、他の魔法省職員はその打ち零し、住民の避難を行うと言った手順だ。


「ところで君。冠位の称号もらってからまだ一年くらいだよね」

「はい、もうすぐで一年ですけど」

「てことは高校に入った辺りくらいかな。どうして冠位というか魔法省に入りたいって思ったんだい。君ぐらいの年頃だと今の青春を謳歌したいって思うのが普通だと思うんだけど?」


その問いかけに埜々は少し困ったような表情をした。

その表情から察した弾はすぐさま弁明するように言う。


「ああ、不躾な質問だね。ごめんよ。僕は君のことは書類でしか知らないからね。コミュニケーションを取りたかっただけなんだ。答えたくないことだったら流してくれて構わないよ」

「いえ、そんなことないです。要は魔法省に入った理由ですよね」


埜々はその質問になんて答えようか迷ったが、うんと頷き話し出した。



「けどそうですね。別段、明確な理由があったわけじゃないんです」


思い出すように埜々は柔らかい表情で話しを続ける。


「ただもう一度、会いたい人がいて、魔法に携わる仕事をしてたらいつか会えるそうなんですけど、結局未だ会えずじまいです」

「会いたい人?魔法省の人なのかい?」

「いえ、どうなんでしょうか?ただその人は私の恩人で、いつかまた、その時のお礼を言いたいんです」


そう言う埜々の様子を見て弾は「へえ」と相槌を打つ。


「光の冠位さんは名前の通り眩しいねえ」

「え」


ポツリと漏れた呟きは埜々の耳には聞き取れないくらいの声で放たれた。

誤魔化すように弾は大っぴらに手を振る。


「いや、独り言さ。そうだね次は僕の話もしておこうか」


そう言って弾は一歩踏み出せば空へ落ちてしまうギリギリの位置まで移動して話し始めた。


「僕が冠位の称号をもらったのは22の時だ。魔法省に入った理由は単純。自分の魔術をこの世の役に立てたかった」


魔法省へ入る人間がよく言う台詞だ。

誰かのために自分の力を使いたい。

魔術を扱う仕事をしたいっと言って魔法省に入る人間は数多い。

埜々はこの人もそういった部類の人なんだなと言った感想を抱いた時、弾は手のひらをひっくり返すような仕草をする。


「というのは建前さ。僕にはその時どうしても助けたい人がいてね。そのためにはお金が必要だったんだ。そんな時東京の本部長から話を持ちかけられてね。二つ返事で冠位の座を貰ったよ」

「聞いていいか分からないんですけど、その人はどうなったんですか?」

「ああ、安心していいよ。今はもう元気もいいところさ」


弾は遠くの空を見上げて黄昏た。

埜々は何処かその表情に何処か悲しい物を感じたが口に出すことがなぜだか躊躇われた。

そんな時弾が何かに気がついて、身体がピクリと動いた。


「ん?」

「どうしました?」


「まさか今日の今日来てくれるなんて、奴さん焦ってるのかな」

「え、どういうことですか?」

「さあ埜々ちゃん、仕事だよ」


そう言って腰にぶら下げている銃を弾は取り出した。

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