会議
「まったく、今結構シリアスな状況なんだから、あまりふざけないで欲しいんだけど」
魔法省名古屋支部長の由美子は少し困ったように弾に文句を言う。
弾の起こした騒ぎを収めて、2人は会議室へと向かっていた。
「いやいや、そんなつもり全くなかったよ。そもそも僕は今日ここに来るよう上に言われていたんだし」
弾は左手を首に当て、由美子に申し訳なさそうに謝る。
「それに顔パスでいいって言ったのは由美子ちゃんでしょ?」
「そうだけど、まさか前日に来るなんて聞いてないって」
「そうなの?僕今日中にはここに着くように言われてたんだけど。上で何か勘違いがあったみたいだね」
当初では明日、弾が到着する予定だったので、由美子は看守達には明日の朝にその旨を告げるつもりだったのだが、予想よりも早く弾が到着してしまったためのトラブルが起きた。
この原因を作ったのは、おそらく、いや、ほぼ間違いなく東京の本部長にガサツさ故の出来事だろう。
「そういえば今会議中って聞いてたけど?」
「君のおかげで途中で止まったままだよ。弾君も付いてきて」
そんなことを話していると、すぐに会議室にたどり着いた。
部屋に入ると、6人の支部の幹部職と名古屋支部長唯一の冠位持ちである神草埜々が席に座っていた。
「ごめん、お待たせ。なんでもなかったよ」
「なんでもないで警報ってなるんですか・・・?」
埜々が不思議そうに呟く。
会議中に警報がなったため、会議に出席していた全員がその場に向かおうとしたのだが、由美子が待機命令を出したので、全員その場で事の成り行きを見守っていた。
「あれ?そちらの方は?」
幹部の1人、青黒い長髪の女性が由美子に問いかけた。
「どうも始めまして。段田と申します。以後よろしく」
弾は帽子を取って、大きなそぶりで頭を下げて挨拶をする。
「彼は東京の本部に所属している冠位の10人(グランドマスター)の1人で段田弾君だよ。出張という形でしばらくは名古屋支部に所属することになりました」
「フルネームはやめてくれ由美子ちゃん」
本気で嫌そうな顔をして由美子に抗議をする弾。
「なんだか語呂がいいね」
「だからやめてくれと」
おちょくってくる由美子に弾が困り果てていると埜々の姿が弾の視線に入った。
大人だらけの会議室の中にいる少女の姿が恐ろしいほど違和感を弾は覚えた。
「そういえばここにも冠位がいるんだよねえ。確か神草さん?だったけ」
「あ、はい私です!」
「へえ君が。最年少と言われるだけあってまだまだ若いね」
「いえ、そんな」
そんな埜々の姿を見て、弾は少し思うことがあったのか。
目を細めてまじまじと彼女を観察する。
それに対して埜々はちょっと引きつった笑いをしていた。
「けどまあ、いやなんでもない」
なにかを言いかけて弾はそれを喉元手前で飲み込んだ。
すると由美子が手を2回ほど叩いて話の流れを切った。
「まあ挨拶はその辺りにして頂戴。さて、彼に来てもらったのは明日からの作戦についてだよ」
「ご存知の通り、ここ名古屋で直近で2回、市街地内で魔獣が出現しました。一回目はそれこそ、各主要都市で魔獣が出現しましたが、2回目についてはここ名古屋だけでした」
青黒い長髪の女性が現状の調査報告をその場でする。
「私たち支部長の間では何者かが魔獣を操っていると考えてる」
「この一連の騒動が人為的なものだって!?」
由美子の発言に幹部達がざわついた。
それもそうだ。
これまでこうした魔獣関連の事件で、人為的な事件とされてきたものは一度たりとも記録にない。つまりは魔獣は人間が掌握できるものではないからだ。
しかし、各支部長達がそうした判断を下したと言うことは何かしらの証拠があったのだろう。
「ふうん?また名古屋に魔獣の襲撃があるかもしれないから、僕は有事の際の予備戦力というわけだ」
「そういうこと。名古屋の襲撃の際に出てきた魔獣はこれまでに確認されたことのないタイプだったからね。君が適任だと思って東京の本部長に相談してみたんだ」
弾と由美子のやり取りを聞いて埜々が疑問を口に出す。
「けど魔獣なんてこちら側は基本後手に回っちゃうんじゃ?どこから出現するかなんて予測できないですし」
「お嬢さん。そこは僕に任せてよ」
弾は埜々の疑問に答えるように笑って答える。
「何。冠位の名は伊達じゃないさ」
「そう彼の魔術でなら・・・」
「おっと由美子ちゃんあまり僕の能力については言わないでくれよ。上からも言われているからね」
「はいはい、君は制限が多いなあ。ともかく埜々ちゃんと弾君の2人が今回の作戦のメインだよ」
「えっ私もですか!?」
由美子の発言に埜々はただただ驚くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます