14.

     ***


「なんだか、モヤモヤする……」

 加須美が笑顔で去ったあと。炒飯の皿を片付けながら、サエは口を尖らせた。

 三途の川のホトリ食堂で料理を食べれば、みんな元気いっぱいに川を渡れるようになるものだと思っていたのに。

「加須美さん、笑ってはいたけど、やっぱり寂しそうだった」

「死ぬっていうことはそういうものだよ」

 篁がさらっと言った。

「でも……」

 サエは河原の向こうを見つめた。

 人々がやってきて、人々が去って行く河原をまっすぐに見つめて、きゅっと唇を噛んだ。

「あとは本人が頑張るしかないでしょ。サエちゃんはやることをやったんだから、もっと胸を張ってていいと思うよ」

 書類の束を整理しながら篁が言った。

 その言葉を聞いてサエは苦虫を噛みつぶしたような顔を見せた。

「どうしたのさ」

「なんか、篁さんがいい人っぽくて気持ち悪いよー」

「へえ。そういうことを言うんだ。もう手伝うのやめちゃおうかな。ほら、信じて任せることも大事みたいだし」

「えー! それとこれとは話が別でしょ! だって篁さんがいないと思い出を覗くこともできないんだよ!」

「そうなると、どうなるんだろうね」

「……どうなるの?」

「試してみる?」

 篁は意地悪な顔でサエをからかう。

 サエは持っていた皿を投げつける勢いで、両腕をぐいと突き上げた。

「篁さんはまだまだいなくなっちゃダメだからね! さあ! 次のお客さんが来る前に片付け終わらせちゃうよ。篁さんはテーブルを拭いてね」

 そう言ってテーブル布巾を投げて渡した。

「しょうがないなあ。サエちゃん落ち込んでるみたいだし、今日だけだよ」

 篁はにたっと笑んで布巾を受け取った。

「貸しだからね。高くつくよ」

「もう! やっぱり篁さんは悪い人だ!」

 サエは使用済みのおしぼりを両手に抱え、篁めがけて投げつけた。いくつもいくつも投げつけて、残りわずかとなったとき。

「あ。お客さん?! ごめんなさい! えっと……ようこそ、三途の川のホトリ食堂へ!」

 サエは笑顔で取り繕い次の客を迎え入れた。


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