第7話 うちのチーズケーキ

1.

「ようこそ、三途の川のホトリ食堂へ!」

 三途の川の畔には今日も元気いっぱいな声が響き渡っていた。

 まず目につくのは、待ちきれずに店先で客を出迎えた少女の笑顔と、真っ白なエプロンと三角巾。立て付けの悪い引き戸を開ければ、年季の入ったテーブルや椅子、古めかしいポスターが「ここはどこだ」と客を惑わす。

 そもそもここに来る者は皆、少なからず戸惑いを持っているというのに、そんなことに配慮する気配は微塵もないという態度でその店と少女はそこにいるのだ。

 どうしてこんな所にこんなものがと問われれば、少女は答えに困ってエヘヘと笑うだけ。

 しかし、

「どうして、私はここに来たの?」

 と聞かれれば、その問いには真っ直ぐ向き合い、できる限り丁寧に説明を重ねた。

「ここはね、何かの理由があって川を渡れない人が来る場所で」

 その理由の多くが現世への未練や心残りだと聞くと、大抵の人間は自分の人生を振り返り、何か心残りはなかったかと考える。

 それを見守り、時に、うんうんと頷き聞いてやるのが少女の仕事だ。

 そうだというのに。

「不安、不満、困っていることがあったら何でも言ってね。きっと力になるよ!」

 いつも通りに少女が笑顔を見せると、

「それは本当に必要なことなのか」

 その日訪れた男は、吐き捨てるようにそう尋ねた。


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