8.
加須美の夫は、今の時代では敬遠されがちな男だった。
朝早くから夜遅くまで仕事をして、家のことは妻に任せっきり。家庭をないがしろにするわけではないのだけれど、家事はおろか、自分の身の回りのことさえも加須美がいなければままならないという男だった。
うちには娘の他に大きな子どもがいるのよ、などとよく冗談を言ったものだ。
そんな夫が、定年退職を機に変わった。
「よし。今度から、週に一度は『主夫デー』を設けるぞ。家のことは俺が全部やるから、お前はゆっくり休めばいいさ」
アルバイト生活になって時間に余裕ができたことがきっかけだった。
週に三日ある休日のうち、まるまる一日が主夫デーとなる。
その日一日、夫が家事を担うという計画ではあったが、では夫一人で何ができるかというと思い浮かぶものはなかった。
「二人でゆっくり過ごせるんだもの、それだけで満足よ」
などと加須美が言っても、
「いやいや、それじゃあ『主夫デー』とはならないじゃないか」
と譲らない。
せめて食事の支度は俺がやるよと言うが、それも夫が思い描いたようにはいかなかった。
朝は、
「あら、うっかり」
と、早起きした加須美がさっと用意してしまうし、昼食は買い物ついでに外で食べたり弁当を買ったりということが多かった。
夕餉の支度が唯一『主夫デー』らしい仕事ということになる。つまり『主夫デー』というのは、週に一度の食事当番ということになった。
記念すべき第一回目の主夫デーで自信たっぷりに作ったのが、この炒飯だった。
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