5.
女の子はある程度の年齢になったら料理に興味を持つものだと信じていた。
母の手伝いをするうちに、その手際の良さに憧れて「自分も!」と、恐る恐る野菜の皮を剥くところから始めるのだと思っていた。
実際、多少は興味を持って、手伝いくらいは経験した。
米とぎ。もやしのひげ根取り。カレー用の野菜の下ごしらえに、味噌汁の仕上げに味噌を溶くこと。
そこからステップアップしていくはずが、いろいろ飛び越え皿洗いにたどり着いたところで、彼女は料理への興味を失った。
学生が大切な時間を割くべきものは他にいくらでもあったのだ。
「勉強に部活にって忙しくしてたら、まあご飯支度の手伝いなんてまったくしなくなったわね。中、高をそんな感じで過ごしたら、もうそのまま一直線よ」
大学、就職と進めばなおさら。
自分のことをしているだけでも、時間がいくらあっても足りないくらいで、帰宅すればくたくたで。
料理に気を向ける暇などどこにもなかった。
そんな彼女に、ある日知らせが入る。
母が入院したという。
職場から駆けつけると、母親は鼻にチューブをつけ、集中治療室に入っていた。心臓の病気だったようで、紹介状を持って大きな病院に行ったその日、即入院ということになった。
そんな状態にもかかわらず、病院に到着した恵に母親は一枚の紙を手渡した。
料理のレシピが書かれたメモ用紙だった。
『ごめんね。数日間だけ家のことお願い。お父さんの方が帰りが早いから、なるべくお父さんにやってもらうけど、少しは手伝ってあげて』
一通り説明してから、母はもう一度「ごめんね」と謝った。
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