4.

     ***


 サエは厨房に入るなり、まず冷蔵庫を開けた。

 中から取り出した物を、満面の笑みとともに篁に見せつける。

「篁さん! 今日はお肉だよ! しかも肩ロース、トンカツ用!」

 金属製のバットに入った肉を嬉しそうに披露するのだが、篁にも恵にも特段の感動はなかった。むしろ冷めた目でサエと肉とを見遣る。

「肉って言ってもねえ。俺、豚より牛派なんだよね。もしくはジビエがいいなあ」

 篁は頬杖をつき、

「あら。最近の豚肉は中々いけるのよ。生産者の努力のおかげね。ありがたいありがたい。で、もちろんその肉も、名のあるブランド豚なんでしょうね?」

 恵は当然のように言い放つ。

 二人の態度にサエはむむむっと唸り声を響かせた。

「二人とも贅沢だよ! 牛でも鹿でもイノシシでもないし、豚は豚でも、名もない国産豚です! それでもきっと美味しいんだから!」

 手に持っていたものを投げつけそうな剣幕だったが、そこはサエも冷静だったようで、久しぶりの肉だと喜びの歌を口ずさみながら調理にかかった。

「それじゃあ、作るよ! 今日はね、『ポークチャップ』という料理! 私、初めてかも」

 肉料理というだけでも嬉しいのに、初めて見る料理とあって、サエは少し興奮気味だった。

 そんなサエを適当にあしらいながら篁が恵に声をかける。

「どうしてこの料理が選ばれたか、心当たりは?」

 篁の問いに恵はしばし考えた。

「ポークチャップは、私が母から唯一教わった料理なのよ」

 彼女は言いながら、推理を続けていた。

 それだけの理由でこの料理が選ばれたとは思えなかったのだ。

 どうしてこの料理だったのか。

 そしてそれがわかれば、この食堂に引き寄せられた意味も、三十代後半の年代にこだわっている理由もはっきりするのかと、真剣に調理の様子を見守った。


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