4.

     ***


 しみじみと人生を振り返るには若すぎたのか。

いやそれは決して年齢のせいじゃない。

 もしも、このまま年をとって天寿をまっとうしていたとしても、やっぱり自分は、こんな心持ちで三途の川を眺めたのかもしれないと崕は感じていた。

「怖いけど、きれいだ」

 今日は少し暑いから、と言ってサエが開けた引き戸の向こうに、大きな大きな川が見えた。

 死後の世界に暑いとか寒いだとかがあるのかと不思議には思ったが、崕は何も言わずに三途の川を見遣った。

 たどり着いたときには好奇心や興奮のせいでずいぶんと大げさに目に映ったが、心穏やかに眺めてみると、それはずいぶん禍々しくて、だけどとってもきれいな流れだった。

 崕はそう思った。

 なんてきれいな流れだろうと思った。

 それを眺める自分の心は、どうしてこれほどまでに落ち着いているのだろうと思った。

 涙のひとつもこぼれないのかと、そう思った。

「だとしたら、俺はどうして生まれてきたんだろう」

 その問いは誰の耳にも届いていないようだった。

 そもそも声には出していなかったのかもしれない。

 己の声帯を震わせてその一言を絞り出したと錯覚するほど、崕の心の中にはその疑問以外のものが見当たらなくなっていた。


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