2.
***
目の前に現れた大河が三途の川だと理解した時、少年は恐怖や戸惑いよりも、ただただ感動したという。
「順応性というか怖いもの知らずっていうか。若い人ってすごいね、
「サエちゃんだって十分若いでしょ」
「私は……あれ? 私っていくつなんだろ」
少年が自分の身に起きたことを興奮気味に話し続けている中、食堂の店主であるサエと常連客の篁は少し疲れた様子でそんなやりとりをしていた。
「三途の川のデカさにもびっくりしたけど、まさか、こんなところに食堂があるなんて」
少年は久しぶりに喋るのをやめてぐるりと店内を見渡した。
「しかも昭和レトロってやつ? こういう食堂、本物は初めて見たわ。すげー」
制服のポケットからスマートフォンを取り出すなり、あちこちに向けて写真を撮る。
「あんなもの持ってこれるんだね」
と驚くサエに、
「結構色々持ってこれるよ。でも、何を持ってこようと、川の向こうの
篁は何でもないことのようにさらりと答えた。
食堂に足を踏み入れた時から、少年はずっと落ち着きのない様子だった。同じ場所にじっとしてはいられず、カウンター席の端から端まで順番に腰かけてみたり、かと思えばくたびれた冷水機を物珍しそうに眺めたり、薄汚れた壁に貼られた古めかしいポスターやら何やらを真剣な眼差しで睨みつける。
忙しく騒々しく何かをし続けていたわけだが、ほんの少しの時間の空白ができると、眉根を寄せ表情を曇らせた。
「これから俺、どうすればいいの?」
間違いなく困っている。動揺している。
それなのに少年は、泣くでもわめくでもなく、おどけたように笑ってみせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます