6.

「こうすると、私、なんでも作れちゃうんだ」

 サエは得意げに笑った。

 だがもちろん、篁の怒りはおさまっていない。

「だから、よりによってどうしてそれを選んだのさ」

「だって、これが一番輝いていたんだもの!」

 負けじと強い調子でサエが反論する。

「名だたる名店の名物料理よりそれが輝いてたって?」

「そうよ! あの短冊が、それはもうピッカピッカにね」

 サエは壁に貼られた短冊を指差して自信たっぷりに言った。

 サエが指した左端の白紙の短冊。白紙となる前に書かれていたのは―

『インスタントラーメン・塩味』

 篁が納得するわけがない。

 だが樽前はそれが何を意味するのか理解しているようだった。

「それはさ、たぶん、」

「ちょっと待った! それを喋っちゃったら私がいる意味がないでしょ!」

 他の料理と同じように思い出話を始めようとした樽前をサエが制する。

「私がこれから作ります。ということで、」

 サエはコホンと咳払いをひとつ。

 そうしてからエプロンのシワを直して胸を張り、腰に手を当て元気いっぱいに言った。

「ようこそ、三途の川のホトリ食堂へ! まだまだ続くなが~い旅路に備えて、お腹いっぱい、心いっぱいに満たされていってね!」

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