4.
書類は篁の手に渡ると、ぱちんと弾けて消えた。粉々になるのとも違う。ぱちんと、消えたのだ。その書類があった場所には仁山が書いた彼の名前を構成する四つの漢字だけが残り、それもすぐにバラバラにほどけた。
それらは、風に舞うひとつまみの綿毛のように、揺れながら、時折強く吹かれながら例の『何も書かれていない短冊』の表面にたどり着いた。
文字は短冊に染み込み、新たな単語となってその場に現れる。
八枚の短冊に、八つの料理名が記された。
「これは……」
「これは、仁山さんが持っている食べ物の記憶だよ」
「それで『記憶を覗く許可』なんてことを言ったんですか」
まあな、などと無愛想に言う篁に代わって、サエが耳打ちする。
「篁さん、十王様たちと仲が良くって。だからあんな特別な力をもらえたんだよ。他にもいくつかあるらしいんだけど」
素直に「うらやましいな」と言うサエは、
「でもね、私もステキな力を一つだけもらえたの」
と微笑みながらメニューの短冊の前に立った。
細くしなやかな指を、料理名を表わす文字へとのばす。人差し指と親指で文字の端をつまむと、ぺりりと短冊から剥がしてしまった。
あろうことか、サエはその文字を一文字ずつ己の舌に載せた。
「なにを――」
仁山の戸惑う顔を見ながらサエは再び笑顔を見せた。
「これが一番輝いて見えたから」
「だから、どういうことなんですか」
「こうすると、私、なんでも作れちゃうんだ」
そう言って、サエは舌先に載せた文字を一気に飲み込んだ。
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