5.
「たしかに、あれもこれも私の好物です。ですが、君が選んだものだけは、それほどでもないというかなんというか……」
仁山は困ったような驚いたような口ぶりで言った。
サエが選んだのは『サンドイッチ』と書かれた短冊だった。
「大丈夫、大丈夫。私を信じて」
サエは言いながら厨房に入る。
「具材は三種ね。玉子、ハムときゅうり、それにイチゴジャム」
まずは固ゆでの玉子を荒く潰して塩・コショウ・マヨネーズ、それからほんの少しの砂糖で味付け。
「フォークで混ぜれば、味を馴染ませているうちに玉子もほどよい細かさになるのね」
自分自身の動作なのに、なるほどなるほどと呟きながらサエは手を動かす。
きゅうりは斜め薄切り。軽く水にさらしてシャキッとさせて、紙タオルで水気を拭き取る。
「ハムもそうですが、パンもマーガリンもスーパーで手に入る普通のものですよね。本当にそれが私の最後の食事になるんですか」
仁山は実に不安そうだった。
いや、ここまでくれば不安に感じるのも馬鹿馬鹿しいとばかりに、不満そうな気配を見せるようになった。どうしてここまできてサンドイッチなんか――というところだろうか。
しかしサエは笑顔を絶やさず手を止めず、黙々と『普通のサンドイッチ』を作る。
「マーガリンはたっぷりめ。ハムサンド用にはうっすら和ガラシも」
呪文のように唱えながら、一枚一枚、丁寧に塗っていく。
その様子を見ていた仁山の表情に変化があった。
「バターじゃなくてマーガリン。マスタードも和ガラシだし、まるでうちの母が作るサンドイッチみたいですね。そういえば、晩ご飯の片付けが終わったあと、母は私と父の会話に声だけで参加しながらサンドイッチを作っていました」
それは、カウンター越しにサエを見ているようでありながら、そうではないどこか遠くの景色を眺めているような視線だった。
「サンドイッチを、夕食後に?」
調理に集中しているサエに代わって篁がたずねる。
篁の言葉を聞いて、仁山は「あっ」と声をもらした。
「そうですね。夕食後にサンドイッチを作っていました。夜に作って冷蔵庫で寝かせて、朝に切り分け弁当箱に詰めるんです」
言いながら、仁山は自分の記憶をたどっていた。
「昔、私にとってはサンドイッチの弁当というのが年に一回の楽しみだったんです」
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