第47話 カマス掃討作戦
三つ目のカマス集落である
大型バスが発車した。暫くして後ろの乗客が、遠くから乗り遅れたらしき住民が必死に追い駆けて来る姿を見付けた。乗客たちも気が付いて運転手に叫んだが、運転手は耳を貸さずにどんどん加速して行った。乗客の一人が立ち上がり、運転席に来てカマス語で怒鳴った。
「逃げ遅れた者が追い駆けて来てるんだ! バスを止めろ!」
すると誘導係の老婆がカマス語で怒鳴り返した。
「一刻の猶予もないんだ! あの人間一人のために、おまえら全員死んでもいいのか! 死んでもいいならバスを停めてやる。全員ここで降りろ! さあ、どうする!」
抗議の男はおとなしくなり、乗客も静かになった。逆に大型バスはさらに加速して揺れが激しくなった。狭い集落の砂利道を突き抜け、県道に出た。県道は片側が崖の曲がりくねった狭い道である。大型バスがカーブを曲がる度に乗客たちの恐怖の悲鳴が上がった。
邪骨集落の住民を乗せた大型バスが、猛スピードで近付いて来る様子に、蛇頭集落の待機組の民兵は危機感を覚えた。邪骨集落が攻めて来たと勘違いして、戦闘態勢に入り、それぞれに銃を構えて迎え撃つ体制になった。
「止まれーッ!」
民兵が拡声器で怒鳴った。しかし、大型バスは猛スピードで近付いて来た。威嚇射撃の一発が放たれた。大型バスは急ブレーキを掛けた。乗客は前のめりになって、中には通路に弾き出される者も出た。運転手は誘導係らと急いでバスを降り、全速で山中に遁走した。
置き去りにされた乗客の一人が、仕方なく運転席に座ってバスを発進させた。蛇頭側の民兵は更に威嚇射撃を連続したが、大型バスは強引に近付いて来るので、運転席を狙って発砲した。弾丸は運転手の顔面を破壊し、バスはコントロールを失って集落の民家に猛スピードで突っ込んでいった。
蛇頭集落の民兵らは、警戒しながらバスに近付いた。車内から助けを求める態の邪骨集落の住民の姿が見えた。その時、大型バスは突然大爆破を起こし、近付いて来た民兵らを吹き飛ばした。
山中に逃げた運転手らは、その様子をじっと窺っていた。松橋英雄と猟友会の高堰勲、柴田松之助、そして誘導係の伊藤照子である。蛇頭集落入口に目をやると、2台の単車が追い付いて来た。
「やはりな」
彼らは大型バスの罠に気付いて追い駆けて来た。あの逃げ遅れたと思われた蛇骨の民兵らだった。蛇骨の民兵は蛇頭側の民兵らに叫んだ。
「助けられなかったのか!」
「無断で集落に入るのが悪い!」
「これは罠なんだ!」
「知るか!」
口論が始まった蛇頭側と邪骨の民兵らを見ながら、松橋英雄は犬笛を吹いた。暫くすると、民兵らの言い争いがぴったり止んだ。蛇頭集落の民兵らの背後に数頭の熊が現れていた。同時に、邪骨集落の民兵らの背後にも数頭の熊が現れていた。民兵同士が互いに相手の背後の熊に気付いてフリーズしたのだ。驚愕する暇もなく、彼らは襲われ、あっと言う間に熊の餌食となった。
炎上した大型バスの火が徐々に他の民家にも移り、屋内に籠っていた蛇頭の住民たちが次々に炙り出されて外に出て来た。10数人の老人や子どもである。しかし、人間狩りをしている数頭の熊に気付き、その場に凍り付いたまま動けなくなってしまった。熊の餌食になるのは時間の問題である。松之助が英雄に確認した。
「どうします?」
「例外はない。子どもであろうとターゲットに変わりはない」
かつてこの村に住んで平和に暮らしていた日本人たちは、蛇頭の侵略の犠牲になった。犠牲の上に成り立ったカマス民族に対しては、1ミリの同情も命取りになる。邪魔者は永遠に蛆のように湧いて出て来る。今この時、どこの集落がカマスの侵略の犠牲になっているか分からない。それを見付けた時点で見逃してはならない。この村は善い人だけが暮らす村、悪い人が消える村だ。この村では、悪い人を消すことで最小限の犠牲で事なきを得て来た。
熊たちは、ゆっくりと残された老人や子どもたちに近付いて行った。
〈第48話「三匹の刺客」につづく〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます