第18話 百地

 次の日は、ランニングから帰ると

「今日は、色々な機体を試してみましょうか。色々な機体に乗れるのが、このパンツィーの醍醐味ですから。」

と、ニコリ。やはり、部長さんの笑顔はドキドキする。

「はい!」

 どんな機体があるのか、凄い楽しみ。


 ドキドキしながら、コックピットに座り、起動する。

「聞こえますか? 日向さん。」

 あれ? 今日は…。えっと…。この声は…。百地先輩?

「今日は、私が使っている機体を試してみましょう。セレクト画面で、【YKー000ー02 矢影(ヤカゲ)】を選んでください。」

 カチャカチャと切り替えていくと、あった。


 今まで使っていた機体よりも、全身が細い。シリンダーって言う筒も関節からよく見えるって思ったら、全身を被う装甲が少ない?

「その機体の特長は、高い機動力とジャンプ力です。その分、装甲と耐久力が低くなっているのは見た目の通りです。」

 やっぱり、そうだった。

「あだ名は【紙人形】。攻撃が当たると大ダメージ。当り所が悪いと一発で壊れます。」

 神じゃなくて、紙なんだろうな。

「有名な軍人さんが言った『当たらなければ、どうと言うことはない。』の台詞は、この機体の為にあるような名言です。」

 確かに、当たらなければ良いんですが…。

「武装は、S−1を選択してください。私が、セレクトした武装パックになってます。」

 そういえば、武装を選んで登録できるって言ってた。

「左右に装備の『シュリケン・シューター』、『ニンジャブレード』。刀は手で、手裏剣は腕なので、持ち替えなくても使えます。」

 二刀流忍者はかっこいい。

「後は、右の『ニンジャクナイ』。左の『ニンジャボム(爆発)』『ニンジャボム(煙幕)』に、特種装備二つ。センターの『ヘキサブレードシュリケン』。後は『波長迷彩』。」

 少しは知識が付いてきて、武装の名前でイメージできる様になってきた…。でも、『波長迷彩』は、ちょっと解らない名前だ。

「ちなみに『ヘキサブレードシュリケン』は、普段は二つに別れていて、背中に装備されています。」

 背中のは翼って思ってたけど違った。

「今回は武器よりも機体のお試しなので、気にしないでやりましょう。」

「はい。でも、『波長迷彩』って何です?」

「そうですね。解り易く言うと光学迷彩の上の装備って事です。レーダーからも消えますから。」

「それ凄い!」

「でも…。」

「でも?」

 一呼吸おいてから、

「エネルギー消費が大きいので、長時間は使えないですよ。」

 やはり、リアルだった。


「とりあえず、動かして感覚を掴んでください。」

 今回は前の様に、いきなり全開にしないぞ。と、操縦桿を前に倒した。


 思ったよりも、かなり速い! 今まで使っていた【リョウサン(RY−03鉄星)】のペダルを目一杯踏み込んだ時の、三分の二ぐらいのスピードは出てる? 

 *個人的な感想です!

 もし、ペダル踏み込んだら…。どれ位のスピード出るのか、凄い興味が沸いてきた。

 思うが早いか、グイッと踏み込んでいた。

 その瞬間、凄い加速でスピードは上がった!

 脹脛(ふくらはぎ)に付いているタイヤが『ガコッ!』て地面に降りる。それはいつもの機体とは、違って片足に二つ縦に列んでいる。確か同じ速度のものを連結すると速度が足されるって、計算方法があったはず。たぶん、どこかの欠陥スーパーマンの法則だと思う。



 速い、速い! 全く、目が付いていかない。あれよあれよと言う間に、風景が流れる。

 広い場所で良かったと思う一方で、こんなに速いと曲がるとどうなるんだろうと、好奇心がふつふつとこみ上げてくる。


 操縦桿を前から右の方向へに傾ける。ドキドキ…。

あまりにも呆気無く、向きを変える…。速度をほとんど落とさないで。

「凄っ!こんなに曲がれるなんて。」

 驚いて声が出た。

「ジャンプしてみて。」

 百地先輩からの指示通りに操縦桿を動かす。


 飛んだ!!

 今まで使っていた機体だと跳躍(ジャンプ)だったが、この機体は飛翔(フライ)だと!

「凄い機体ですね! この、なんて言えば良いのか…。運動能力が高い。」

「うんうん。その通り。」

 自分の機体が褒められて嬉しそうな返事が返ってくる。

「今回は装備してませんが、『ワイヤーアンカー』を使えば空中で向きを変えられますよ。」

 あの装備は空中で向きを変えたりするのに使うんだ。また、一つ使いかたが解った。



しばらく、走って跳ねていると

「そろそろ、武器を使ってみましょう。」

この機体ならいけそう! 何かいけるかは不明だけど。

「では、いつもの【リョウサン】をセットアップします。」

美星先輩。


スピードのお陰で直ぐにリョウサンが見付かる。

「そこぉ!」

いつもの感覚で、右のシュリケンシューターを放つ!

十字シュリケンが空を斬り飛んで行く!

そして!

……

………

…………。

「えっ! 届かない?」

びっくり!

「その機体の武器は、ほぼ近距離戦用です。」

百地先輩からのアドバイス。

じゃあ、もう少し近付いてからの

「当たれぇ!」

今度は、当たった!


『カーーーン!』

 音が響く。

「弾かれた?」

それならと、右のニンジャブレードを出して斬りかかる!

よし! 当たった!


『カーーーン!』

 この音は、もしかしてダメージ無い?

「その機体の武器は、相手の装甲の薄いところを狙わないと駄目なんですよ。白兵武器は、機体の重量が威力に直結しますから、軽いと威力が無い。って事になります。」

 ありゃ。

「それにあまり、威力ある武器を使うと反動でバランスを崩し転倒します。」

 バランス崩すとヤバいな。

「一応、『ヘキサ・ブレード・シュリケン』は威力のありますが、一回しか使えないうえに、使用の前後のモーションがスキだらけなので、上手く使う必要があります。」

「えっーーー!」

 凄い機体だと思っていたら、こんな弱点が! まだまだ、知らないといけない事が多い…。


 って、思ってたところに部長さんが、

「日向さん、白兵武器の威力を上げる方法がありますよ。」

「そんな、方法があるんですか?」

「あります。先ずは、二刀流! これで、攻撃力が二倍。」

 そうか、

「次に最大まで加速し、二倍のジャンプ。そこから、相手に向かって突進しながら、二倍の回転を加えてる。」

 もやもやっと想像してみる。

「そうすれば、ニ✕ニ✕ニで威力が八倍ですよ。」

「そんな方程式があったなんて!」

驚きの方程式だ!

「ありませんから。」

 無情に美星先輩が突っ込んで否定した。


……。


 沈黙って流れるんだ。って、実感できた。


 その後は、装甲の薄いところを狙う攻撃をやってたけど…。やっぱ、当たらない…。

 この機体のスピードに加えて、相手も動いている。よっぽど、慣れないと無理じゃないかな?

 それに、相手からの攻撃が当たると直ぐに警告が出て行動不能になる…。

 攻撃に集中すれば、回避が疎(おろそ)かになる。難しい…。


 そういえば、一回きりの…何とかって奴があるとか…。練習なので試してみてもいいよね?

 えっと、右に装備されているな。とりあえず、選んでみる。


 後で、見せてもらった動画には…。


 二つに分かれて、背中に装備されているものを一つずつ手に『ジャキーーン!』ってして、正面で『ガシャーン』って合体させる!


 見た瞬間に、カッケーーー!って思ったよ。


 合体させると大きなシュリケンになった。それを、機体を回転させ反動を付け、思いっきり投げる! だった。


 カッコいいんだけど、使い所が難しそうだな…。

 疑問に思い、百地先輩に聞いてみた。

「なんで、でっかいシュリケンを装備したんですか?」

 どんな基準なんだろう?

「それはね…。背中に装備している時に翼みたいでカッコいいでしょ。そのうえ投げる時、これがまた凄いカッコいいのよ。」

 目を輝かせ、

「やっぱり、見た目が大切よ。」

 なるほどだった…。



「そろそろ、終わりましょう。」

 百地先輩が声をかけてくれた。

 そして、気が付いた。私、凄い疲れてる。手足が重い。結構、神経すり減らしてる…。


 隣のモニタールームへ戻ると、

「お疲れ様。」

 百地先輩が出迎えてくれた。

「どうだった?」

「速くて、楽しいですが。凄い難しいです。」

「私も慣れるまで時間かかりましたから。」

「やっぱり…。」

 今の私じゃ使いこなせないなと、思っていたのが顔に出たのか部長さんが、

「別に、この機体にずっと乗りなさいって事じゃないんですよ。色々な機体を試してみて自分に合ったのを選ぶって事なのですから。」

「そうでした。」

 忘れてた。

「今日は帰りましょう。」

「は〜い。」

 部員の声が揃った。


 その日は、疲れて早々と寝てしまった。

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