第19話 忍

 夜空に浮かぶ満月。


 気配を感じるが早いか駆け出す!

 そこは、身の丈よりも高い草の海原(うなばら)。

 その中を尾を引く様に数匹の獣が走る。


 先端が交わり、火花が散る。

 刹那、宙へ飛び出したのは人影は、『忍者』と呼ばれる姿をしていた。

 着地からの跳躍で、再び空中で二人が合間見える。


 二人に差が出た。

 着地した者と地に落ちた者。


 着地した者を襲う手裏剣。

 既(すんで)でのところで、刀を地面に刺し軌道を変え交わす。

 その反動を利用して、再び宙へ舞う。

 反撃の手裏剣!

 苦悶の声が小さく短く漏れ、地面へと崩れ落ちる。


 また、駆ける!


 突然、草の壁が開けた。

 草の海原を抜けたと知る。

 そこで待っていたのは、満月に浮かび上がる漆黒の人影。


 見えたが早いか、放つ手裏剣!

 それは、漆黒の人影に吸い込まれる様に当たる!

 『カン!』『カン!』『カン!』と、放った数だけ音が響く。


 漆黒の人影は、纏っていた黒い外套に手をかけ宙へと、脱ぎ捨てながら放つ言葉は、

「そんな武器は効かないよ!葵ぃぃぃぃぃ!」

 真紅の忍者装束の上に鎧を着込んだ実宏が仁王立ちしていた。

「実宏ぉぉぉぉぉ!」

 忍刀で斬りかかる!


 『カン!!』という虚しい音がと共に弾かれる。

「あんたの武器じゃ、私の鎧は抜けないよ!」

「ちぃぃぃぃぃ!」

 ならばと、狙うは鎧の繋ぎ目!

「そこおぉぉぉぉぉ!」

「甘い!」

 そう、それは罠!

 振り下ろされる太刀をギリギリで避け、後ろへと飛ぶ。


「あれしかない!」

 口から出た言葉は自分を納得させる為か。

 距離をとり、一呼吸置いてからの疾走!

 一直線に向かって行く。


 「今だ!」

 左手で投げた。それは、鎧に当たり地面へと落ちる。

「効かないって!」

 自然と実宏は、目線が落ちた物を追った。

「これは!」

 気が付いた時には、導火線の火は本体へ吸い込まれるところだった。


 同じ頃合いで、地を蹴り宙へ舞う。

 大爆発する焙烙玉(ほうろくだま)、それが地面に落ちた物の正体。

 宙で爆風を余す所なく受ける為に、首に巻いていた長い襟巻きをムササビの様に広げる。

 頂点に達した所で、背中のもう一本の忍刀を左手に持ち二刀流とする。

「これで攻撃力は二倍!」

 続け、

「今、私がいるのは通常の二倍の跳躍の高さ! これで、攻撃力は更に二倍の四倍!」

 ここから、体を捻り回転させる。

「落下速度と回転で、攻撃力は更に二倍!」

 高速回転しながら、二振りの刀を前方に突き出す。

「実宏ぉぉぉぉぉ!これで、私の攻撃力は八倍だぁぁぁぁぁ!」

 私は、一つの刃となった!


「葵ぃぃぃぃぃ!」

 私に呼びかける声。それは実宏…。

「葵ってば。」

…。

 あれ?なんで実宏の声がじゃないの?

「起きないと、遅刻するわよ。」

 『夢オチ』それが、この忍者対戦の正体だった。


「はっ!」

 時計を見ると、ギリギリだぁぁぁぁぁ!

「なんで、もっと早く起こしてくれないの?」

 また、いつもの台詞をお母さんに、

「起こしたわよ。」

 この返しも、いつもと同じだ…。

「あんた、何の夢見てたのよ。両手を振り回すわ、寝たまま足は走ってたわよ。」

 あっ…。

「それに、『そこだ!』とか『当たれ!』とか喚いてたわよ。」

 ヤバい、夢の動きと声が現実世界に漏れてた(涙)


 昨日使った機体が、忍者みたいだなって思ったから見た夢?

 お母さん見られたのは恥ずかしかったけど…。

 夢の私は、カッコよかった!

 多分。


 気を取り直して、いつものギリギリの登校へと挑んだ。

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