第7話 奇跡

 昼休み、生徒の憩(いこ)いの時間。


 偉大なる何とかって人は、奇跡の力で海を割ったと言う。たぶん…。

 ここで起きた奇跡は、人の海が割れた。それは、一年生のクラスがある階の廊下で。

 廊下で思い思いに過ごす、大勢の男女の生徒。人が集まるところ、生じるざわめき。そう、廊下はざわめきで満たされていた。

 登り階段から廊下へと足を踏み入れた瞬間、奇跡は始まった。

 静寂が空間を支配し、周囲の男女が壁へと移動して、人の海が割れた。

 廊下を進むと共に、その奇跡が移動する。


 呑気に教室でお弁当を食べていた私は知るよしもなく…。

 それはヒタヒタとやって来た…。

 ドアの外まで。


 ドアが開き、教室の中に静寂が満たされる。

「日向葵さんはいらっしゃいますか?」

 凛として響く声。

 お弁当が、喉にぃぃぃぃぃ!

「ぐっっ、ぐはぃ!」

 苦しみながら、立ち上がる。

「今日は体操服持参で来てください。よろしい?」

「わ、解りました!」

「では、放課後に。」

 くるりと向きを変えた時に舞う、長い黒髪がスローモーションに見えるのは気のせい?


 一緒にお弁当を食べていた実広は、呆気に取られ固まっていた。

 少しして

「今のは?」

と、聞いたが私が立ったまま硬直しているのを見て、それ以上は聞かなかった。




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