第6話 朝

 そして、朝にもお約束はやって来る!

「葵!今日はお休み?」

 はっ!

「どうして、もっと早く起こしてくれないのよ!お母さん!」

「何回も起こしたわよ。」

 完全にお約束の奴だ。

 仕方ないので、寝癖は放置確定。

 ここまでお約束は継続となると、次の奴は…。

「朝御飯どうするの?」

 聞かれるのは当然!

「パンだけでいい!」

 パンをくわえて靴を履いているところに、お母さんが

「お弁当要らないの?」

「忘れてた!」

 鞄に詰める。

 今のところ、お約束の減点はないよね。

 このままいくと、アレが待っているはず。ドキドキ!

「行ってきます!」

 言うが早いか駆け出すが早いか、家を飛び出す。


 その時は、やって来た。

 それは角を曲がった瞬間に起きる奇跡!

『どかぁーーーーん!』

 星が飛ぶ! 体も飛ぶ! 着地はお尻から…。

「痛たたたぁ…。」

 じゃない!

「ごめんなさい。急いでて。」

 目線を向けて、お約束を確認。

 先ずは足! 黒のアウトドアブーツに深い緑のズボン。スラリと長い脚。うんうん、いい感じ。

 半袖のシャツから伸びる腕は筋肉質で、逞(たくま)しい。よっしゃぁ!

 シャツとベルトの隙間から、ちらりと覗くお腹は締まっていて、割れている!

 そのまま上に目線をば…。

 そこには、ガッツリとした谷間に豊満な胸…。完璧!

 ……

 はて? 何か変な…。


「大丈夫かい?」

 手が伸びてくる。

「こっちも、不注意だった。」

 素早く立ち上がり、頭を上げては下げる。それは素早く動く水飲み鳥の様。

「すみません。本当にすみません。」

 それを繰り返しているうちに

「こっちは大丈夫だから、気にしなさんな。それより、急いでたんじゃないの?」

 それは繰り返す上下運動を止めるには十分な言葉。

「ち、遅刻ぅぅぅぅぅ!」

 あわあわ。

「早くお行き。」

 優しく言ってくれた時に初めて見た、ぶつかった相手の顔。それは、ワイルドでカッコいい女性。年齢は私より上。

 鋭い目が印象的。その目で、何もかも見透かされているようだった。

「本当にすみませんでした。」

 最後にもう一回頭を下げ、鞄を拾い走り出した。


 小さくなる私の背中に

「あの制服って。」

 その言葉は居た事に気が付かなかった、もう一人の西洋ぽい顔立ちに金髪の長身の美女。

「そうね。」

と、答えた。



 ホームルーム開始三分前に席へとたどり着いた。

 隣の席の実宏(何故隣の席なのかは、神である作者の陰謀です。)が

「寝坊したね。」

「げげけ、何故解った。」

「それはだね、ワトソン君。到着時間と君の頭の寝癖。」

 はっとして寝癖を押さえる。

「それと、君はここに来る途中に転んだね。」

「な、なんでそこまで解る!」

 ちょっと、びっくり。

「ふふふ、君が転んだ時に、額からビビィーーー! と出てだね。解ったのだよ、古い地球人。」

「古い地球人って…。」

「私は新しいタイプの地球人! そうニュータイプなのだよ。」

「まさか…。」

 信じかけた時…。

 後ろの席の女子が、

「汚れてるよ。」

 制服をパンパンと払ってくれた。


『キンコーン~♪カンコーン~♪』

 予鈴が、私達の漫才を終わらせた。




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