第4話 帰る


「そろそろ、終わりにしましょう。」

 小窓に映る部長さんが声をかけてきた。

「はい。解りました。」

 何と無く感じは掴めた! はず…。って、どうやって終わるんだろう? と思ったら『ガラガラ』とコックピット(箱)が開らいた。


 顔を出したのは副部長さん。

「お疲れ様。初めてで疲れたでしょう。ログアウトだけは気を付けないとデータが飛んじゃうから…。手順覚えてね。」

 手を伸ばしてスイッチ類を押していく。


 あわあわ、全く見てなかった…。ど、どうしよう。

「取り合えず、これで終了。行きましょう。」

 副部長さんが隣の部屋へ。


「お疲れ様。」

 部員さんの皆が声をかけてくれた。

「どうでした?」

 感想を求める部長さん。

「楽しかったです。まだ上手く動かせませんが。」

 やってみると、凄い楽しかった。本当に。

「それは、良かったです。」

 や、やっぱり部長さんの笑顔は可愛いなと、見とれた。


「ところで。日向さん。」

 不意に質問が。

「は、はい。」

 今度は声が裏返らなかった。偉いぞ私。

「【養成ギブス】と【パワーウェイト】どっちが良いですか?」

 部室の時間が凍り付く!


 暫く何を言われたのか、全く理解出来なかった…。もしかしたら、理解しようとしなかったのかも。

「ぶ、部長…。」

 副部長さんの時が動き出した。

「な、なんなんですか、それは。」

 必死に言葉を絞り出している感じだ。

「ほら。ピンチの時に『真の力を見せる時が来た!』って外す隠しアイテムですよ。」

 真顔だ。

 た、確かにそうだけど…。女子高生のアイテムじゃないから!

「そうですね。」

 いや、違うから、確か百地先輩。

 他の部員さんは、何を言って良いのかと、言う雰囲気。


 何かに気が付いた様な表情を浮かべた部長さん。

「あっ、両方もありかな。ほら、パワーアップ1(ワン)、パワーアップ2(ツー)で、段階で上がっていくのは今風ですよね。」

 部員の止まった時は動き出さない。

「うーん。悩みますね。」


「部長。」

「何かしら、百地さん。」

「【養成ギブス】は、動く度に音がするのでは?」

 そ、そこなのぉ!

「なるほど…。装着しているのがバレちゃいますね。『真の力をみせるぜ!』がバレていたら、カッコ悪いですもんね。」

 真剣に悩んでいる…。

「ですよね。ギシギシ音がしてたら丸解りです。」

 だから、百地先輩そこじゃないぃ! たぶんだけど…。私も自信無くなってきた。

「じゃあ【養成ギブス】は、取り合えず候補から外しましょう。」

 一安心していいの?私!


「部長…。」

 やっと副部長さんの時が動き出した。

「何かしら?」

「日向さんは、基礎的な動かし方の段階だから、まだパワーアップは早いんじゃあないですか?」

「そう言われれば、少し早いですね。」

「ですです。」

 副部長さんの機転で助かった…はず! 心の中で、『(*^ー゚)b グッジョブ!!』を送った。


「今思い付いたのですが…。」

 な、何だろう? 部長さんが、

「【養成ギブス】とか【パワーウェイト】とかありきたりですよね。」

 そ、そこぉぉぉぉぉ! 私の魂が抜けて、コケた…。お笑いのコケをやった!残念ながら魂だから誰にも見えないけどぉ!

「これっていう、アイテムを考えておきましょう。」   

 私は考えなくてもいいと思うのだけれど…。


「ともあれ、今日は帰りましょう。」

 部長の言葉で、時計を見て驚いた。

「もう、こんな時間!」

 時が飛んだ様な感覚がしたのは気のせいだよね。夢中になっていて、全く気が付かなかった。


 部室出ると、外は薄暗くになっていた。

「では、皆さんまた明日。」

 笑顔で部長が挨拶。

「お疲れ様でした。また、明日~♪」

 部員達が去っていく。

 私も挨拶し、歩き出した背中に。

「日向さん。また、明日ね。」

「は、はい。また、明日です。」

 ちょっと声が上擦った。



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