第2話 設定
付いて行った先の扉を開けると、そこは大きなモニターが三台とパソコンが数台。何だか、ロボットアニメの司令室みたいな感じだ。
「こちらへ。」
更に奥の部屋通された。そこに、あったのは大きな箱。人が充分入れる大きさはある、としか言い様のないもの。だって他に例え様がないんだもん。
それが、1㍍程の間隔を開けて六個並んでいた。入り口側の面に1から6までの番号が振ってある。
「とりあえずは、1番を使いましょう。」
言いつつ、大きな箱に手を掛け引っ張った。すると大きな箱が『ガラガラ』と長い方の真ん中辺りで二つに割れる。
その中に見えたのは、まんまアニメとかのロボットの操縦席。
「どうぞ。」
部長さんが促す。
「は、はい。」
中へ入ると案外広い。椅子に座ると、間違いなくロボットの操縦席だと思う。
正面に大きなモニターがあり、その下には何かのボタンとかがいっぱいある。地面と垂直に立ったのハンドル(?)、レバー(?)が二本、更に足下にはペダルもある。
「座席のセッティングから始めましょう。」
座席の横ののダイヤルをいじり始める部長さん。
「操縦桿(そうじゅうかん)の位置は大体良ろしいですか?」
ハンドルって言わないんだ…。
「ペダルをいっぱいまで踏んでみてください。」
私の足の方へ視線を移しながら部長さん。
「右ですか? 左ですか? それとも、両方ですか?」
はて? どこかで聞いたような台詞。
「右を踏んでください。そちらを基準にしましょう。」
言われた通りに右だけ踏んだ。
「もう少し前ですね。」
ダイヤルで調整する。
「もう一度踏んでみてください。少し、余裕があるくらいで最後まで踏める位置が良いと思うのですが。微妙なところは好みですが。」
言われた通りの位置で踏み込んだペダルが止まる。
「これで、座席は良いですね。」
立ち上がりながら部長さんが、
「右側のパネルにメインスイッチあるのでONにしてください。」
四角い枠で飾られた、他よりも大きいスイッチをONにした。低い唸りの様な音が響き、パネルのあちらこちらのランプが点灯する。
「正面モニターの下に読み取り機がありますから、タブレット端末機をそこへ。」
そこには、場所に長方形の切り込みみたいなものがあった。タブレット端末機を置くと、隅に赤い小さな光が灯った。
「非接触タイプで読み取りと書き込み、更に充電もしてくれる親切設計です。」
にこやかに言った。
「そのタブレット端末の残量電力では、少し充電しないと駄目みたいですね。丁度良いですから…。」
な、何が丁度良いんだろう…。心の中で突っ込んで、ふと見た部長さんの顔は、凄い嬉しそうだ。
「操作のやり方を教えますね。まずは、両手の操縦桿から始めましょう。」
慌てて手元の操縦桿を握る。
「それを…。」
部長さんが親切丁寧に手取り足取り、操作方法を教えてくれる。
『シューシューシュー』と煙が上がり、『ボム』と私の頭が爆発した!
皆にも音が聞こえたに違いない。操作説明に脳の処理が追い付かなかった。
「今のが動かし方になります。」
はっ! ほとんど何を言われたのか解らなかった。私の頭じゃ理解できない。
「あ、あのぉ…。」
恐る恐る声をかけた。その時、正面のモニターが映り、『ぴろりん』と起動音らしきものが箱(コックピット?)の中に流れた。正面のモニターには「ようこそ。ゲストさん。」の文字が並んでいる。
「やってみましょう。」
割れていた箱をガラカラと押して元に戻した。箱が閉まっていくのと合わせて、正面モニターの下にあった、ボタン類のパネルが手前にせり出してきて手が届く位置になった。
「えっと…。」
一人取り残された私はどうすれば良いんだろう?
正面モニターの右隅に小さく部長さんが映った。
「聞こえますか?」
「は、はい。聞こえます。」
返事はしたけど…。
「右のトリガーを引いてください。」
えーと、トリガーってと迷っていると
「操縦桿の赤いボタンです。」
これかな? 赤いトリガーは人差し指で引ける位置にあった。
引くと電子音と共に正面の画面にロボットが映し出された。それは線だけで画かれていた。後で聞いたらワイヤーフレームって言うらしい。
「何かロボットが出ました。」
報告したけど、たぶん要らないよね。
「何が良いかしらね。」
小さい画面の向こうで部長さんが他の部員と相談しているみたい。
「初めての人には…。」
考え込む部長さん。
「部長。初心者には…。」
副部長さんが割り込んで来た。その台詞を遮る様に
「あら、駄目ですよ。副部長。重装甲タイプは。」
「な、なんで解ったんですか?」
驚き気味な副部長さん。
「仲間を増やそうという魂胆(こんたん)は見え見えですから。」
笑う部長さん。
「残念…。」
肩を落とす副部長さん。
「部長。初心者には【リョウサン】ですよ。」
部員の中から声が上がった。
「そうね。【リョウサン】良いですね。流石、オペレーターやってると違いますね。」
部長さんの顔が凄い嬉しそう。
「あらためて言われると照れますよ。」
笑ったのは、赤い細長眼鏡に少しウェーブの掛かった胸辺りまである髪に、カチューシャをした部員さん。あの人オペレーターだったのか。って、オペレーターって何!
う~ん、【リョウサン】って。漫画の主人公の名前ぐらいしか思い付かないけど。違うよね、たぶん。
後は、量産機体だから。そのままの【リョウサン】かな?
「日向さん。」
ビクッっしてした。話がこっちに向いてなかったから油断してた。
「ハ、ハいィ。」
裏返った声が、超恥ずかしい。
「右の操縦桿を動かして、【RYー03 鉄星(テッセイ)】って機体を画面に出してください。」
「えっと。」
右の操縦桿を左右に動かすと画面の機体が次々と代わっていく。どこにあるのかな?
あった。これだな【RYー03鉄星】って書いてあるよね。鉄星(てっせい)って読み難い。
第一印象は、如何にもって感じの直線的なデザインで量産機ぽい。正面から見たら、縦長の長方形じゃなくて、正方形に収まりそうな縦横の比率。ロボットというよりは、戦車が近いのかな、私主観だけど。
後で改めて実機の写真を見たら、戦車じゃなくて、ユンボとかブルトーザーみたいな重機の方がイメージが近かった。あちこちの関節の部分に見え隠れするシリンダー(って言うらしい筒)が特に、その印象付けていた。
「日向さん聞いてます?」
はっ、部長さんの声で我に帰った。全く聞いてなかった…。
「あっ、あのあの…。」
またまた、慌てる。
「その機体はヤマオカ重工のRYシリーズになります。汎用性に長けていて、ベース機として使っている人は多いです。」
なるほど…。汎用性ってなんだろう?
「カスタマイズの幅も広いですし、前に見た機体は、西洋の甲冑風にしていました。」
西洋甲冑ってどんだけ趣味入ってるんだ。
「RY03って続けて書くと…。」
もやもや~、頭の中で書いてみる。
「RYOで3…リョウ3(さん)なのですよ。」
語呂合わせだったのか。も、もしかしてと、疑問が浮かんだ時、
「当然、RYー01はリョウイチ、RYー02はリョウジです。」
や、やぱりぃ、そのままだったぁ!
「兎に角、汎用性が高いので、初心者には良い機体だと思います。」
そして、暫しの沈黙……。
突然、
「あーーーーっ!」
部長さんの大声。
「びっくりしたぁ!」
回りにいた部員達がハモった! 私もびっくりした。
「そ、そうよ!アレだったのよ!アレ!」
アレを繰り返す部長さん。
「アレって何ですか!?」
誰だろう? まだ、声で誰だか区別がつかない…。って、そもそも部員の人達全員を紹介さえされてない。
「私とした事が、まさかアレに気が付かなかったなんて。」
掌を合わせて組んでいる部長さん。
「だから、アレって何ですかぁ!」
部員達の突っ込みも力が入る。私もアレって何か知りたい。って、私に関係あるのかな?
「まだ、皆さん気が付きませんか?」
今度は質問になった。
「はぁ…。」
見えないはずの他の部員さん達がお互いに顔を見合せている場面が、私にも見える。多分。
「気が付いたのは私だけのようですね。」
ちょっと得意そうな部長さん。
「だから、アレって言うのは…。」
ゴクリと固唾を飲み込んで次の台詞を待った。何言うんだろう。
「アレって言うのは、最近は使われ過ぎて飽きられ気味の…。」
部長さんがためるためる。でも、アレって何だろう? 思考を廻らせるが全く想像が付かない。
凄いためからの
「巨大ロボットが、日常の一部のなった世界からの【転生者】。そのパイロットだった彼女が何らかの事情で、こちらの世界へと記憶と経験を持ったまま転生した!」
部長さんの言葉に『カッキーーン!』と、時間の止まる音が響いた。
目を瞑(つぶ)り、右手を胸に左手は軽く曲げ斜め上に突き出した姿。その表情は恍惚(こうこつ)として、自らに酔っている。
「それしかないです! 使い過ぎの設定だけど、逆に意表を突いていて誰も気が付かない!」
言いながら胸の前で、手の平を合わせて組んだ。その姿は祈っている様にしか見えない。
解ったのは止まった時の中で、話せるの部長さんだけみたいだ…。
「ですよね! 日向さん、転生前の記憶ありますよね!」
言い切った。質問されたけど、停止した時の呪縛の中で動ける能力があるわけもなく固まったままな私。
「も、もしかしたら…、まだ【転生者】として覚醒していない?」
ポーズを腕組みに変更しながら考えてた。
「もしそうなら、戦いの中で覚醒? だから、転生前の記憶が無い?」
更に考え込んだ。
「それなら、全てが繋がると言う事なのでしょうか。」
一瞬間をおき
「計画を立てる必要がありそうですね…。」
今度は、マイクで拾えないぐらい小さい声で『ぶつぶつ』言い始めた。
「ぶ、部長。」
いち早く我に返った副部長さんの声が。
「あら。私としたことが…。」
我に返ったらしい。部長さんに関しては、自分の世界に入っていただけだけど…。
「まだ、諦めて無かったとは…。流石、部長。」
他の部員さん達も我に返ったのか、小さい声がスピーカーから流れた。
「えっと。日向さん…。」
部長さんの問いかけが。
「はっ。」
私も我に返った。
「はいぃ。」
今日は、声の裏返り記録が更新されたな…。
「機体決定してください。」
と部長さん。
「えっと…。これかな?」
右の操縦桿のトリガーを引いた。
画面に《決定》の文字が出て、画面に小窓が開いた。
「《武装》って出ましたけど…。」
小窓の文字を読んだ。
「最初だから、武装は無しで行きましょう。武装を装備すると色々あるので、《武装無し》を選んでください。」
操縦桿を動かすと、線で画かれたロボットに、これまた線で画かれた武装が描き足され、次々と代わっていた。暫く動かしていると《武装無し》が選べた。
次に画面に出たのが、人間の顔の輪郭に十字に線が入った奴。漫画の顔の下描きにそっくり。
「顔みたいな奴が出ました。」
「正面向いて、赤トリガーを引いてください。」
言われた通りにすると、モニターの顔の輪郭に、私の顔がハマったものが映った。
「顔を左右に振って見てください。」
ブンブンと振ると、モニターの顔も同じ様に動く。こっち向いてるから、正確には反対だけど。
「パイロットの顔の動きに合わせて、機体の顔も動くシステムです。昔は、ゴーグルとか、ポインターを頭に付けてたのですが、今はカメラで読み取って動かします。」
へー。なんだか凄い、ロボットと一体化したみたいな感じだ。
「正面から左右の振りが同じなら、センターが合ってます。」
意識して左右に振り確認した。
「合ってます。」
「では、『OK』を選んでください。それで、機体のセットアップは終了です。」
OKを選ぶと顔が消えた。
それを見ているのかいないのか…。心の中では正直、驚いていた。私が知らない間に、こんなに進歩していたなんて。
後で、実宏にも教えてあげよう。
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