鉄鋼の戦乙女(仮)女子高生が二本のスティックとペダルで操作するゲームで青春します!

ノザ鬼

第1話 始まり


 私、日向葵(ひなた あおい)。今日から華の女子高生!

 入学式は、変わり映えしない眠たさとの戦いだった。


「終わったぁ。」

 体育館から出た後に、おもいっきり背伸びした。

「あんたは猫か。」

 親友の尾実久宏(おく みひろ)の突っ込みが。

「だって、眠かったし。」

 次は両手を後ろで組んで、頭の方へと持ってきて伸びをする。


 この高校は部活動が盛んで、いっぱいある。

 入学式後の勧誘合戦は名物とか。

 私は、料理研究会に入って女子力上げる! って決めている。

 『モテない高校生活は地獄!』って誰かが言ってた! 気がする。

 握りしめた拳が自然と顔の高さまで上がっていた。

「ちょっと、何気合い入れてんのよ。葵ったら。」

と実宏が笑ってた。

 はっとし、

「何でもない、ない、ない。」

 否定した手の動きは早かった。

「早く、お料理研究会探そう。」

 小走りになっていたのは、恥ずかったから。


 いくつもの勧誘を避けていると、いつの間にか実宏とはぐれていた。


 気が付くと、そこは校舎裏と思われる場所。

「あなたは、新入生?」

 突然、背後から声がかかった。

「は、はい!」

 驚いて声が裏返ってしまった。

「こんなところで何を?」

 振り向き見ると、腰まである黒のロングヘアーに天使の輪が綺麗な女性。上級生かな?

「迷っちゃったみたいで…。」

「そうなの、この高校広いから。」

 微笑んだ。改めて、思うのは綺麗な人だ。

 私もこんな感じになって、高校生活をエンジョイするぞ!

「お名前は?」

「私、日向葵って言います。」

「良いお名前ね。どんな字を書くのかしら? 良かったら教えて下さる?」

「えっと、ですね…。」

と説明を始める。緊張してドキドキする。

「ちょっと解らないわ。御免なさい。」     

 すまなそうな顔も綺麗だ…。

「あっ…。」

 ポケットから紙とペンを出す姿も様になる。

「御免なさい。利き手が…。」

 右手には包帯がぐるぐると巻かれていた。

「私、書きますから!」

「本当。御免なさいね。ここのところに、お願いしますね。」

「はい!」

いい臭いがする。近寄られると更に緊張する。

 書き終えると、紙を眺める様にして

「こんな字を書くのね。」

「お願いついでに、もう一つよろしいかしら?」

「は、はい!」

 お近づきになって、この人から女子力学ぼう。

「では、付いて来て下さい。」

 背を向けて歩き始めた。

「はい!」

 また「はい!」って言った…。緊張してるのバレたかな?


 連れて来られたのは校舎裏の隅にある建物。

「入ってください。」

 進められて入った。でも、ここ何だろう?

「おっ! 新入部員ゲットですか? 部長!」

 中には数人の女子生徒がいた。

 えっ! 新入部員って何?

「とりあえず、一人確保しました。」

 後では扉の閉まる音が。

「えっと、ここは? 新入部員って?」

 振り向くと、さっきの上級生が

「あら? 日向葵さん。先程、入部届けに名前を書いたじゃありませんか。」

 さっきの入部届けだったの!

「私、そんなつもりじゃ…。」

 頭の中はパニック!

 このシチュエーション何処かで聞いたことある。私の気が確かなら…ヤバい奴じゃないかぁぁぁぁぁ!

「この高校の決まりで一度部活に所属すると、半年は続けないと駄目なのですよ。」

 部長だった上級生の人が、包帯を解きながら言った。えっ、怪我してないの。

 ひそひそと話している回りの女生徒達に、パニックになっている私は気が付かない。

 背の高い人と眼鏡かけてる人の会話は

「そんな決まりあったけ?」

「私は聞いた事ありませんが。」

「別にあっても、無くてもいいんじゃない?」

と小さく笑っている。

「ま、そうですね。新入部員が入るなら。」

と問いかけた方も小さく笑う。


「私帰ります!」

 扉の方を向いた時。

「そこ邪魔ですよ。」

 足下から声がした。

 目線を下げると、髪を両サイドで纏(まと)め短い房を下げた小さな女の子がいた。

 なんで、こんなところに小さい子が?

 女の子は、私の顔を見て

「今、なんで子供がここにいる? って思っただろう。私は、この高校の二年生だ!」

 怒った口調だ。よく見ると制服着てるし。

「あのあの。」

 漫画みたいなリアクション。恥ずかしい。

「まあまあ、副部長。新入部員には優しく。」

と、部長さんが…。

「おぉ。待望の新入部員さん!」

 ちっちゃい副部長さんが凄い嬉しそうだ! 私は悲しいのにぃ!

「ふむふむ。」

と、ちっちゃい副部長さんが指を折って数えている…。

 嫌な予感…ち、違う…予感じゃなくて! 確定だ、多分…確定なのに、多分て…。頭の中がパニックだ。

「何とか団体戦出られますね。部長。」とちっちゃい副部長さんは、にこやかに言った。


「立ち話もなんだから、座ってください。」   

 部長さんが椅子を進めてくれた。

「お茶と御菓子ね。」

 副部長さんが出してくれる。

「日向さん。パンツイーって知っていますか?」

 部長さんが真顔で聞いてきた。

「パ、パンツ!」

 顔が真っ赤になって、『ポン』と爆発する頭。今の音は絶対に皆に聞こえてる。

「違います! パンツァー・イェーガー。約してパンツイー。」

 副部長が突っ込んできた。


 何か聞いたことあるような、無いような…。


「これこれ。」

 背の高いベリーショートの女子生徒(上級生かな?)が雑誌を開いて見せてくれた。そこには、人形のロボットが戦っている写真が載っていた。


あっ、見たことある! これがパンツイーって言うのか。


「見たことはありますけど…。」

「それなら、大丈夫ですね。」

 部長さんが、小さく拍手している。

 な、何が大丈夫なのだろうと、心の中で突っ込んでしまう私。

「ほら、少しでも知識があれば、後は【習うより、従え。】って言うじゃないですか。」

「ぶ、部長! 違う!」

 部員からの総突っ込みが入っる。

「細かい事は気にしないでください。」

 大きい事だと思うのだか…。

「ところで、向日さん…。」


「中学生の頃はスポーツとかのクラブ活動で名を轟かせたとかありますか?」

 何だか期待した視線を感じるのは、気のせい?


「な、ないです。私帰宅部でしたから。」

 改めて言うとちょっとだけ恥ずかしい。


「では、お家が謎の古武術の家系とか?」

 真顔だ…。


「そ、そんなことあるわけないじゃないですか!」

 目の前で、振った否定の手の動きは、今回も早かった。


「だとすると、あれですね。」

 な、何かの設定が決定付けられた!

「伝説のパイロットと呼ばれていたお父様が、理由(わけ)あって引退。その事を家族に隠して普通に生活しているパターンしかないですね。」

と真顔で。

「お父さん、普通のサラリーマンです。」


 少し考え

「このパターンは、逆に新しいのでは?」

 腕組みから右手を立てて、その指で顎の辺りを撫でる仕草。

「普通ならどれかに当てはまるはずなのに。」

と首を傾げる。


 他の部員の人達は大爆笑…。


 はっとした顔。

「まさか…」

 その表情は真剣そのもの。

 笑っていた部員も、静まり。

「な、なんですか?」

 聞くのは、確か副部長さん?


「ほら、無関係だった主人公が、突然今までに無い最新型の機体を手にして、才能を開花させて急成長するパターンですよ。」

 両手を広げ続ける。

「だから、日向さんは他のパターンに当てはまらないのです。」

 力強い握りこぶしが見えた。


 ガクゥ! って音が部室中に響き渡った気がしたのは、気の性じゃ無いはず。


「やはり、軍の依頼を受けたメーカーが、極秘りに開発を行っていた新型が、スパイによって持ち出される。」

 間を置き、

「スパイが街で日向さんにぶつかり、転んだ拍子にデータの入った鞄がすり換わる…。」


 少し黙ったのは考えてるから。

「こんなありきたりじゃあ駄目ですね…。」

 自らの考えを否定した。


 また、黙り込むと思ったら直ぐに

「サラリーマンだと思っていたお父様が実は、最新鋭の機体の開発をしていた。その事に気が付いた敵対組織に誘拐された。」

 敵対組織って何だろう…。

「その時に、最新鋭機体を娘の誕生日プレゼントに隠した。受け取った娘は、敵対組織と戦う為に最新鋭機体に乗る。」


 考え中…


「うーんと、後は…。」


 考え中…


「お祖父様が科学者で、革命的な機体を設計。悪用される事を恐れ、孫娘にしか操縦出来ないようにした。とか?」


 誰もが、きょとんとする…。私なんか、魂が抜かれて人形にでも入れられたかと思った…。


 静寂! 静寂! 静寂! 静寂! 静寂! 静寂! 静寂! 静寂! 静寂! 静寂! 静寂! 静寂!


 ゆっくりと頭が横を向きお互いの顔を見る部員達。

 静寂からの、大爆笑!

 笑い転げる副部長さんが

「部長。アニメとか漫画じゃ無いんですから。」

 笑いを堪(こら)え苦しそうに言った。

「えーっ! 今年も期待してたのに。」

 子供っぽく、残念そうに言った。こんな、一面もあるんだ。


 ん? 鈍い私も少ししてから気が付いた!

 今「今年も」って言った。私の耳がおかしくないなら…。

 好奇心には勝てなかった。

「あの、部長さん…。」

 恐る恐る聞く。

「何かしら?」

「今。今年もって言いませんでした?」

「あら。鋭いですね。去年入部した小南さんは、中学時代はバスケットボールの有名な選手でしたのよ。今も、バスケットボールやれば、直ぐにプロからスカウト来るんじゃないかしら。」

「プロはない、ない。」

 背の高い、バスケットボール選手みたいな人が謙遜(けんそん)してる。

「あら、謙遜しなくても。今だに、バスケ部からは、お誘いあるのでしょ。」

「ありますけど、こっちの方が性に合ってますから。」

と笑う。

「更に、百地さんなんかは、あの百地丹波の子孫なのですよ。」

 部長さんが頭ごと視線を向ける。


 えっ…。そこは、誰もいない…。

「えぇぇぇぇぇぇ!」

 驚きをそのまま声にしてしまった。

 誰もいないって思ってた所に、黒色のふちの眼鏡を掛けた、どこにでもいそうな感じの女子生徒がいた!

 キラリと反射した眼鏡のレンズがこっち見た。

「やっぱり、部長には見付かってしまいますね。」

 そこに居た女子生徒は、右の人差し指で眼鏡を『クイッ』ってした。

 他の人は慣れているのか、ちらっと見ただけだ。

「完全に気配を消して回りと同化してるはずなのに。私もまだまだ修行が足りませんね。」

 こっちを向いて

「後、捕捉ですが、末裔と言っても家系図では端っこの方ですから。」

 なるほど、百地丹波の子孫か…。って 百地丹波って誰? 丹波って言ったら、霊の世界で有名な人しか知らないぃ。


「ところで、日向さん。」

「はぃい!」

 部長さんにいきなりふられて、また声が裏返った!

「スマホ持っていますか?」

 えっ、メールアドレス交換? 今知り合ったばかりなのに。ちょっと嬉しいけど…。

「まだ、持ってないんです。」

 恥ずかしい。お母さんをちょっとだけ恨んだ。携帯電話は高校に入学してからって。もう入学したのに。帰ったら買って貰おう。

「あら、そうなの。」

 ちょっと残念そう。きっとメールアドレス交換したかったんだな。憧れのメル友。

「パンツァー・イェーガーのパイロット登録等のデータをスマホのアプリケーションで管理するので、必要よ。」

 メル友じゃ無かった。

「備品のタブレット端末機でゲストinしましょう。副部長よろしくね。」

「了解~♪」

 部屋の隅のロッカーの方へ行った。


 暫くロッカーをゴソゴソやってから帰ってきた副部長さん。

「これ使ってね。」

 渡されたのは、ちょっと前の小型のタブレット端末機。

「ここが電源で…。」

 電源と言った辺りを何度かいじりって、首をかしげる副部長さん。

「あれ? バッテリー残が0になってる。」

「ゲストinだから大丈夫でしょう。」

 何が大丈夫なの部長さん。

「それもそうですね。」

 そうなの副部長さん。


 いつの間にか心の中で突っ込むキャラになっている私!


「付いて来てください。」

 部長さんが立ち上がり、部室の奥へと歩き出した。

 直ぐに立ち上がり、渡されたタブレット端末機を持って付いて行く私。あれ? 他の部員さんも付いて来た。


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