青年、用を終える
「おぉ! 全部交換できた! やっぱり、倭国は違うねー!」
秋晴れの空の下、嬉々した声を弾むのは、小碓に翡翠の釧を渡した青年だった。
青年は魔除けの品々が入っていた袋を覗き込んで、満足そうに頷く。その中身には魔除けの品々は入っていないが、代わりに別の物がいっぱい入っている。それが彼の成果だった。
魔除けの品々は、全て交換出来た。可愛い妹の土産も、その他の人の土産も手に入った。もう、ここに用はない。
「雪が降り始める前に、帰らないといけねぇな。でも、せっかく来たんだから、今日一日はこの都を見て回るか」
早く帰って妹の顔を見たいが、妹に倭国についてたくさん話してやりたい。ずっと交換していたから、市場しか知らないのだ。
妹が土産話をせがむのは目に見えている。出雲から出られない妹のためにも、沢山の土産話を集めたいところだ。
「それにしても、墓荒らしねぇ。物騒だねぇ」
自分がこの土地に来てから、二回墓が荒らされたそうだ。しかも二箇所とも、大王の身内の墓だという。
副葬品が盗まれて、それが交換に出されたかもしれないからと、交換した物、交換するつもりの魔除けの品も検品された。
全部大丈夫だと言われて、ほっとした。交換した物ならともかく、魔除けの品が怪しいと言われなくてよかった。
全て出雲から持ってきたのに、容疑をかけられてはたまったものではない。
「あ、そういえば、全部交換していなかったな」
正確にはまけた。
男なのに、女と間違えてしまったその詫びとして。
その時の少年と、一緒にいた青年の顔が脳裏に蘇る。
「あいつ、ほんと、女の子にしか見えなかったなぁ」
声も少女特有の声だったし、顔の造作も中性的というより女の顔付きだった。そして、あの華奢な身体。強く抱き締めたら、折れそうな印象を持った。
「本当は女だけど訳あって男として生きているって言われても、納得するしかないぞ、あれは……」
ああ、そういえば、少年と一緒にいた青年も一目見たら、忘れなれない容姿をしていた。
凛々しい顔立ちに、高く真っ直ぐ伸びた背。均等のとれた体付きをしていた。
「けっこう目立つ二人組だったな」
あの後周りを見回したら、皆がちらちらと二人を見ていた。
「ん?」
青年は首を傾げる。
あの時はやっぱり目立つねぇ、と思っていたが今になって思うと。
「皆、緊張しているというか怯えていたような……」
怯えられるような人には見えなかった。話して緊張する程でもなかった。
「うーん。そういや、上質な衣を着ていたな。偉い人だったのか? あー、道理で他の人とはなんか雰囲気が違ったんだな」
一目見て、今まで見たことない空気を纏っていた二人。
言葉では言い表せないが、あの少年は光のような白いものを纏っていたように見えた。もう一人の青年は、風のようなものを感じた。
ああ、そういえば。
「あの旦那……なんか、胸に変な気配がしたけど、なんだったのかねぇ」
しばらく考えたがやはり分からなくて、青年は考えるのを放棄した。
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