闇の中で
「ない……」
静かに、だが切羽詰まったような声色が闇を震わす。
ゆらり、ふらりと人影が穴から出てきて、夜空を仰いだ。夜空は月が隠れていて、煌々と輝く星も見ることはない。
人影にとってそれは好都合だった。此処にいる所を見られても、姿は見えない。この穴の奥には、盗んだ玉がある。これを見られても姿をとらえなくては、捕まる事はないだろう。
何処。何処にある。
盗んだ玉の中に探し求めるものはなかった。
何処。一体、何処にあるの。
玉は何処にある?
「何かお探しですかな?」
掠れた男の声がして、人影はさぁっと青褪める。
声をした方向へ振り向くと、ある程度離れた場所に一つの影が佇んでいた。
人影は声を出さなかった。声を出したら、性別がばれてしまうからだ。相手の姿が見えないということは、相手も自分の姿が見えない、ということだろう。
「警戒しなくても大丈夫。私は、あなたの味方だ」
味方とはどういうことだろう。
人影は、自分が悪い事をしている自覚はあった。それでも、人影には取り戻したいものがあった。どうしても、取り戻したいものが。
さらに警戒心を顕わにした人影に対し、男は薄く笑う。
「そんなに警戒しなくても、ご安心を。良ければ、あなたの探し物を一緒に探してあげましょう。代価はいただきますけどね」
人影は瞠目する。
協力するだと? 自分に? どんな得があってそんなことを。
男は両手を広げる。
「さぁ、あなたの探し物は何でしょうか?」
訊ねる男に躊躇しながら、探し物の名を言った。
「それはそれは……確かに難しい探し物だ」
しかし、と男は声を少し張り上げる。
「あなたは運がいい! 私はそれの在り処を知っている」
「!」
人影は声が詰まって、咄嗟に反応できなかった。
今、この男は何て言った?
探し物の場所を知っていると、確かに言った。
それは本当なのか、と問おうにも声が震えて出来ない。
男は続けて告げた。
「今すぐにもその場所を明かしたいところですが、まずは代価を……この場合は交換条件というべきかな? 君が私の頼みごとを聞いてくれれば、在り処を教えしよう」
「頼みごと……? どんな?」
「とある人を暗殺してほしいのです」
暗殺。男は言いにくそうでもなく、声を潜めるわけでもなく、あっさりと告げる。
人影は声を呑むが、その心に迷いはなかった。
「分かりました。引き受けましょう。ちなみに、そのとある人というのは、どなたです?」
男は口の端を吊り上げて、嗤った。
「この国の第三王子……小碓王子です」
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