第6話 蘇る条件

「第七十五転生士から話は聞いていますよ? あなたは生前の記憶を失っているようですね。しかし、それもあなたが望んだことなのです」

「……全然話が見えねえな。なんでオレはそんなこと望んだんだ?」

「もう一度元いた世界に蘇るためです。あなたはその望みを果たすため、転生士として働くことを了承したのです」


 女神アティーナは微笑みを崩さない。


「本来地上で死んだ魂は浄化され新たな生命体になることが常。しかし、あなたはそれを頑として認めなかった。『もう一度元の世界に帰る。オレには守らなければならないものがあるから』と言ってね。あそこまで頑固な魂は久しぶりに見ました」


 アティーナは少し嬉しそうに微笑んでいるようにオレには見えた。


「しかし、あなたを無条件で蘇らせることなどできません。いいえ、本来蘇らせるなどあってはならないのですが、私はあなたに条件を付けました。転生士として仕事を全うすれば蘇らせても構わないとね。あなたはその条件を飲んだのです」

「……なんでオレはそんなに蘇りたいと願ったんだ?」

「……それこそが、あなたのなすべきことなのです」

「……どういうことだ?」

「あなたの蘇りたいという願いは純粋なものでした。しかし、それだけでは我々神はルールに反してまで蘇らせてあげることはできません。あなたは転生士として再び生を受けた。その時、ほとんどの記憶を失ったはずです。その記憶を失った状態からあなたが蘇りたいと願った理由を思い出すこと。純粋な願いを信念に昇華させる。それが蘇らせる条件なのです。思い出せる可能性は万に一つ。失敗すれば一生自分が何者かもわからず、転生士として働くのみ。しかし、それでもあなたは通常の転生ではなく、転生士として蘇り再び元の世界に戻ることを望んだのです」

「おい、なんだかわかるようでわからないぞ。オレは頭が悪いんだ。もっとわかりやすく説明してくれ」

「ダメよ」といたずらに女神はほほ笑む。

「だって、わかりにくいように説明しているのだから。我々が導いたらそれは試練ではありません。自分自身で辿り着くのです。あなたの願いがなんだったのか、何を叶えたくて再び元の世界に蘇りたいと思ったのか」

「ちっ。あんたに聞いたら何かわかるかもと思ったのに……なんも教えてくれないなんてケチンボだな!」

「フフフフ。斑鳩大和。私はあなたに期待しているのですよ? あなたなら久方ぶりに『黄泉返り』を起こせるかもしれないとね。地球から来た者で白界で自我を取り戻す者など本当に久しぶりの存在なのです。ましてや名前を思い出せるなんてイレギュラーを起こすものもね。さあ、行きなさい」


 アティーナが掌を掲げると、光の門が現れる。


「その門をくぐれば青界です。そこで自分のなすべき仕事をしながら、あなたが蘇りたいと思った理由を思い出すのです」


 ……さっぱりわからねえ。なにひとつ分からねえが、前に進むしか道はない。オレはアティーナの促すまま光の門をくぐった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界転生士 向風歩夢 @diskffn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ