第5話 女神との邂逅

 気持ち悪くなりそうな空間だ。綺麗な光の門から入った空間は吐き気を催しそうなくらい様々な色で彩られていた。どちらかと言えば暗色が多い。気が滅入りそうだ。地面もあるにはあるようだが、上下左右全てがぐちゃぐちゃの色で埋め尽くされているから方向感覚がなくなりそうだ。オレは何かに導かれるまま、前進し続ける。しばらくすると、白い光の球が見えてきた。光の球は近づくにつれ大きくなり、それが別空間への入り口だと直感で理解する。


 光の球の空間に入り込むと、そこには綺麗な川が流れ、緑の草原が広がり、そこに幾ばくかの樹が美しく並んでいる。そして、川岸にある岩を椅子代わりにそいつは座っていた。


「来ましたか……。どうやら、あなたは賭けに勝ったようですね。歓迎しましょう」


 美しい白人の美女が座っていた。白い布を身にまとい、草で出来た冠をかぶっている。たしか、月桂樹とかいうやつだったか?


「賭けって何のことだよ?」

「……覚えていないのですか? これは珍しい」

「第七十五転生士とかいうおっちゃんにも言われたよ。名前を覚えてるのに、自分がいた場所を覚えてないヤツは珍しいってね。……あんた何者だ?」

「答えずとも、理解しているでしょう? 私は女神アティーナ。この世界の神の一人」


 神様ね。現実離れしている存在だが、今この状況を見るにウソは言ってなさそうだ。


「私たち、神はウソを言うことはありませんよ。ウソをつくのは不完全な存在だけですから」


 ……心を読みやがった。何もかもお見通しってわけか。


「それなら賭けのことを聞いた時も、オレの思考を読めば覚えてないことくらいわかっただろうに。意地悪だな。女神様も」

「フフ、そうかもしれませんね。でもこれは仕方のないこと。私たち神は知的生命体を我々と同レベルまで引き上げることが役目なのですから」

「あんたたちの役目は知ったこっちゃないが、オレはこれから何をすればいいんだ? 神の使いになったらしいけど、第七十五のおっちゃんも何をしたらいいのか教えてくれなかったんだ」

「あなたの役目は、青界の転生士として迷える魂を浄化することです」

「迷える魂の浄化?」

「ええ。恵まれずに死んだ魂を別の世界に転生させて浄化させ、再び別の生命体へと変化させるのです。それがあなたの役目」

「……柄じゃねえな。まるで神か天使さんがやるような仕事だ。心が読めるならわかるだろ? オレはそんな高尚な人間じゃあねんだわ」

「もちろん知っていますよ。あなたの人間性も。しかし、あなたはやり遂げなければなりません。これはあなたが望んだことなのですから」

「オレが……望んだ?」


 女神アティーナは全てを包み込むような微笑を浮かべていた。

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