第2話 思い出せ
俺は何者だ?
自分の名前さえも思い出せない。こんな大事ことを思い出せないなんて俺はどうなっちまったんだ……
そして、名前なんかよりもっと大事なことも忘れてしまったような気がする……何だ、この心がむずむずする感じは……
「どうやら、まだ自分の置かれている状態が正しく分かっていないようだな」
「え……?」
「自分の体を見たまえ」
「あれ?」
俺は視線を動かして自分の体を見ようとしたが、そこには何もない。
手も足も胴体も……何もない。俺は頭だけに……
「頭だけになっちまったのか……か?」
第七十五と名乗った男が俺の気持ちを代弁した。
「私もそう思った。今のお前と同じ状態になった時にはな、だが結論から言えば今のお前には頭もない。体をなくして魂だけになっているのだからな」
「あ?」
どういうことだ。魂……だと、じゃあ俺は……
「俺は死んだってことか?」
「ふむ、その可能性が高いな」
「可能性が高いってなんだよ! はっきりしてくれ!」
「我々にも君が死んでしまった魂なのか、この白界に湧いて出た魂なのか、わからないのだ。君自身が判断するしかない。ただ、『帰る』と君は言ったのでな。おそらく死ぬ前に居た世界に帰りたいと思っているのだろう、それならば死んでしまった魂である可能性が高いということだ」
ああ、そうだ。俺は帰りたいと思っている。だが、帰りたい場所も、帰りたい理由も思い出せない。
「さて、悠長に君が思い出すのを待つ訳にはいかない。そろそろ仕事をさせてもらうか……」
「アンタが質問してきたんじゃないか、随分と勝手だな」
「重要なのは意識を取り戻してすぐに思い出せるかどうか、なのだ。」
「思いだせなかったらどうなるんだ?」
「今すぐ生まれ変わってもらうだけだ。それが我々の仕事なのでね」
「それはいわゆる輪廻転生ってやつか?」
「そのとおりだ。全ての記憶を失い、また新しい生命体に生まれ変わってもらう。知的生命体に生まれ変われるといいな」
「知的生命体に生まれ変わったって記憶を失うなら意味はないだろ!」
「ははは! 確かにそうかもしれないな!」
「第七十五転生士様……そろそろ……」
第三千……何番だったか忘れたが、その男が第七十五に促している。俺を生まれ変わらせるつもりだろう。
「待ってくれ! すぐに思い出す! 思い出せないまま生まれ変わらされてたまるか!」
「すまないが、我々も忙しいのでな。悪いが時間切れだ……」
第三千何番かが俺に触れようと手を伸ばしてくる……
思い出せ! 思い出せ! 思い出せ! 思い出せ!
三千何番かが俺に触れる寸前、その時だった、俺の内側から熱い何かが湧きあがって来た。そうだ、俺は……俺は…
「俺は神水学園初代風紀隊長『斑鳩 大和』だああああああああああああ!」
俺が自身の名前を叫ぶと……俺の魂が激しい光に包まれた……そして、体の感覚が戻ってくる……十秒くらいだっただろうか、光が弱まり消えた時、俺は体を手に入れていた……転生士とかいう連中と同じ服を着ている状態で……
「ほお、こいつは面白いことになったな」
第七十五転生士が笑みを浮かべて呟いていた……
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