第9話

 それから店主は彼を店の奥へと連れて行き、椅子を三脚用意して私たちを座らせた。それから店主は再度入り口の方へ向かい、店じまいだとでも言うように、店の扉を閉めCLOSEの看板を掛けた後、自分も椅子に腰掛けた。


 今から何が始まるのか。先ほど彼が探している本があると言った店主を見つめるも、店主は言葉を発しない。ただにこにこと微笑むだけだった。横を見ると店の中に連れ戻された彼もどうしたらよいのか分からず、私と店主へと交互に視線を送るだけであった。


 「えっと、おじいちゃん?」


 沈黙に耐えきれず、私は店主へと声をかける。


 その声に「わかった」とでも言うように、店主は私の方へ優しい視線を向け、頷いた。それを見た私は再び黙る。


 「君は本を探しに来たんだね。」

 

 店主が未だに居心地悪そうにする彼へと声をかけた。

 

 「…はい。」

 

 彼はゆっくりと言葉を発する。

 

 「あの、人に、紹介されて。ここだと、本が見つかるって、聞いたんです。」

 

 「君に本のことを教えてくれたのは誰か聞いてもいいかな。」

 

 店主は彼に合わせて、ゆっくりとやさしい声で話す。

 

 「土屋…土屋静…です。」

 

 私は、彼の口から出た名前に心当たりはなかった。しかし店主は目を細めて、懐かしそうな顔をしていたので、きっと店主の知り合いなのだろうということは、すぐに予想がついた。

 

 「土屋さんは確か、「森の中の星」という本を探していたんだったね。」

 

 店主は目を閉じて昔の記憶を思い起こしているようだった。

 

 そんな店主の様子を見て、店主が自分の求めているものを与えてくれるかもしれないという期待からか、彼は安堵の表情を見せた。

 

 「はい。土屋静は僕の祖母なんです。」

 

 「ああ、土屋さんのお孫さんか。」

 

 店主は改めて彼に「いらっしゃい」と言う。


 どうやら彼は私の知らない土屋静さんというお客さんのお孫さんで、おばあさんからこのお店のことを聞いてやってきたらしい。

 

 「僕は土屋諒(りょう)と言います。祖母からこの本屋のことはずっと聞いていて知っていました。」

 

 「そうだったんだね。だから今日君はここに来たんだね。」

 

 二人の間でどんな共通の認識があるのかも分からない私はただぼうっと二人のやりとりを眺めるだけであった。

 

 「はい。もうどうしようもなくて。」

 

 土屋さんは困った様子でため息をつく。

 

 「大丈夫だよ。君にぴったりの本を探してあげよう。」

 

 店主は土屋さんの方にぽんと手を置いてそう言った。

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