第6話

 なぜ先ほど五月さんに、私が田中書店を継ぐと言ったのか。どうして私の決意を知っていたのか。いや、私が店を継ごうと思いここに来ているからよかったものの、もしも店を継がないと言いに来たのだとしたらどうするつもりだったのか。色々な疑問が次々に浮かぶ。聞きたいことがありすぎて、全く言葉にならない私を見て、店主はくすっと笑う。


 「なんで笑うんですか。」


 あまりに脳天気に感じる店主の笑顔に恨めしさすら感じ、いつもならば店主に対してほとんど使わない敬語を使う。


 「ごめん、ごめん。」


 やはりまた店主は笑いながら言う。店主を一睨みするが、本気で謝っているわけではない店主にこれ以上怒っても仕方ない。私は気持ちを切り替えてさっきから聞きたかったことを聞いてみる。


 「何で私が田中書店を継ごうと思ってること分かったんですか。」


 ぶっきらぼうに店主にそう問いかけると、店主は簡単なことだとでも言うように説明を始めた。


 「それはわかるよ。だって、唯ちゃんお店まで走ってきたでしょう。息が上がっていたからすぐに分かったよ。」


 確かに私は田中書店に早く行かなければと思い、急いで来た。だから息が上がっていたと言われれば、そうだなと思う。でも私が疑問に思っているのはそこからのことなのだ。


 「確かに走っては来たけど、だからってお店を継ぐとは分からないじゃない。」


 「え?それは分かるよ。」


 店主は当たり前のように答える。


 「だって、店を継ぐことを考えたいって言って帰って行った唯ちゃんがお店に走ってきたんだよ。断るならそんなことする必要ないでしょう。」


 店主に私の考えがすっかり見透かされていたことに驚きもし、恥ずかしくもあった。


 「でも、だからって五月さんに急に言うんだもん。」


 すねた子供のような声が出てしまう。私の意思で田中書店に来たのだから、きちんと店主にお店を継ごうと思っていることを自分の言葉で伝えたかった。でも店主は全てお見通しだったのだ。それが少し悔しかった。


 「うーん、まあ五月さんは常連さんだし、唯ちゃんと五月さんをお互いに紹介するいい機会だと思ったしね。」


 店主は優しく私に声をかける。


 「唯ちゃん、本当にありがとうね。これからこの店を頼むよ。」


 店主は今日一番の笑顔で、私にそう言った。でも私には店主が笑っているのに少し泣きそうにも見えて、一言返事をする以外何も言えなかった。

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