第3話

 今日は田中書店に行くためだけに外に出てきたので、特にほかの場所に寄る気も起きない。このもやもやとした気持ちをなんとかしたい気持ちはあるが、仕方なしに家へと歩みを進める。平日の昼間の商店街は行き交う人も多くなく歩きやすい。商店街を歩いていると小さい頃からの私を知っている八百屋のおばさんや、家具屋のおじさんが声をかけてくれたので、それに挨拶を返しながら私は足早に商店街を抜ける。


 この商店街は私にとって少し居心地が悪い。


 私が平日の昼間に商店街を歩くことができるのは仕事が休みだから、というわけではない。二十七歳の今、私は仕事をしていない。正確には大学卒業後、すぐに親の希望もあって公務員として市役所で働き出した。市役所に入ってやりたいことがある訳ではなかったが、今後のことを考えたときに安定性のある公務員という職業はとても魅力的に映った。しかし、実際に市役所で働き出すとやりたいこともなく、淡々と書類を作成し事務をこなすのはつまらなかった。


 仕事を覚えていくのは楽しかったが、新しいことを始める予算もなければ、上司は型を破ったときのリスクを考え新事業に反対してくる。仕方なく、毎年例年通りの事業を行うがそれだけでは飽き足らず、あまり効果の見込むことのできない事業ですら廃止することもできないので、実施し続けることしかなかった。


 そのような環境に身を置いた私にできることと言えば、ロボットのように毎年同じ時期に同じような資料を作成することだけ。特に大きなやりがいも達成感も感じることなく毎年が過ぎていく。そんな生活を続けていくうちに、どんどんと無気力になっていくのが自分でもわかった。私は何のために働いているのか。それがわからないまま四年間働き続けたが、仕事の意味を見いだすことはできなかった。もっと自分が楽しめて、やりがいを感じることがしたい。人のためになる、そんな仕事をしたい。そう思った私は公務員という安定した職業から自ら離れることにした。


 それから半年ほどは自分にとっての充電期間と称し、それまで貯めた貯金を使いながら旅行をしてみたり、買い物をしてみたり、おいしいものを食べてみたりと精力的に行動していた。それらはそれなりに楽しかったが、なにをしていてもいつも虚無感を感じていた。私は半年がたったある日、このままではいけない、仕事をしなければとインターネットの就職サイトを通じて仕事を探し始めたのだが、どの仕事も前のそれと変わらない気がしてしまい、結局面接に応募することすらできないままさらに半年が過ぎ、今に至る。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る