1-4
ミリアはそう言いながら、まだ成長途中で膨らみかけのわたしの胸を、激しく強く握る。
「や、やめて、ミリア……」
そう言って戸惑うわたしの声をミリアは当然のように無視して、それどころか、わたしの身体を犯す彼女の掌の感触は次第によりプライベートな部分に向かっていく。
公共の場である学校の教室でこんな行為をしている恥ずかしさやら何やらで、わたしの心臓の鼓動は凄いことになっていた。片方の手で力強くおっぱいを握っているミリアには、わたしが感じている緊張感がじかに伝わっているはず。それを思うとさらに恥ずかしさが増して、また心臓の鼓動は大きく勢いを増す。けれどミリアのいたずらな手は、一切緩むことなくわたしの下半身にまで伸びてきて、
「だめだよミリア。ここ教室、なんだよ」
「うん、知ってる」
そう言いながら、ミリアの手はわたしの股の間でうごめき続け、そしてしばらくして彼女は無邪気な笑い声を上げた。
「ははっ。やっぱりミリアは女の子」
「もうっ、いったいどうしちゃったの、ミリア?」
これはやりすぎだ、そう思ってわたしの語気はちょっと強くなる。
普段からミリアはマイペースでちょっと自分勝手なところがあるけど、誰が見てるかわからない学校の教室で、こんな風に破廉恥な行為に及んでくるなんて。……
「ごめんね、レイ。ちょっと確認したかっただけなんだ。あなたがちゃんと女の子か」
「そんなの、あたりまえでしょ」
うん、そうだね。憤慨するわたしの声にミリアは何ともなく答える。わたしはそんなミリアの相変わらずの態度に思わず溜息を漏らした。
わたしがそっぽを向いていると、ミリアの細い腕が背後からそっと抱きしめてきた。今度はさっきみたいな乱暴な動きとちがって、どこか甘えるような柔らかな抱擁。
「わたしが確認したかったのはね、おとこにあって女にはないものなんだ。おとこには、おっぱいはないけど、その代わりにあるものが生えてるんだよ」
「あるもの、って?」
「それは、それこそ公共の場では口にしてはいけないものらしいよ。とっても卑猥なものだから」
まったくどの口がそんな言葉を言うのか。さっきまで、あんなにやらしいことをしておいて。……
そんな風に思わなくもないが、でも、いつだって人の目なんか気にしなくて堂々としているミリアでも口に出すのを躊躇ってしまうようなものって、いったい何だろう?
この時のわたしは、そんな興味だけが先にたっていたように思う。
後にして思えば、ミリアのこの思わせぶりな口調は、わたしにおとこに関する興味を引かせるための仕掛けだったに違いない。でも、そんなことに頭の回らない当時のわたしは、ただ純粋にミリアの仕入れてきた新しい知識の名前を心の中でつぶやいているのだった。
おとこ。
おとこ、か。……
「子供をつくる──つまり、新しい生命を産むっていうのはね、本当はその、おとこの存在が必要なんだ」
わたしの背後で、わたしの背中を抱きながら、ミリアが言う。どこか神妙な声だった。
「わたしが観たあの映画では、おとこと女がベッドの上で裸になって抱き合って、そして何度も何度もお互いの下半身を打ちつけ合って、そして数か月して女のお腹に新たないのちが誕生する。……それはわたしたちが教えられてきた生命誕生のプロセスとは全然違ったもので……つまり、子供は本来、工場の瓶の中で成長するなんてことはないってことを示しているんだ」
「それ、本当の話?」
話の後半になるにつれ少し低く冷たくなったミリアの声。その声を聞くだけで、彼女がやり場のない怒りに似た何かを抱いていることを感じた。いや、真実、彼女は怒っていたのだろう。偽りだらけのこのセカイに対し、それを仕組んできた大人たちに。
だから、ミリアの声は氷のように研ぎ澄まされて、
「もちろんほんと。ねえ、レイ……このセカイはね、わたしたちにいろんな真実を隠しているんだよ。赤ん坊が工場の中で製造されるものっていうのもその一部分で、このセカイでのあらゆる常識は本来の人間の生き方から歪んでしまっている。わたしは、それが許せない。隠された真実はすべて暴きたい。わたしは、偽りのセカイの歯車の一部ではいたくない、本物の自分でいたいって、そう思うんだ」
そう宣言したミリアの顔は見えなかったけど、たぶん、その時の彼女はとても真剣な表情をしていたんだと思う。だって、ミリアのあんな冷たい声を聞いたのは初めてだったから。
「だからね、レイ。わたしはいつか、このセカイを飛び出て、本来の人間が生活する場所へ行こうと思う。その時は、レイもいっしょがいいな」
ミリアはそう言うと、わたしの身体を抱きしめる両腕にぎゅっと力を込めた。
わたしは、嬉しかった。
いつも何かに飢えていて、気が付けば綿のようにふわふわとどこへでも飛んでいきそうなミリアが、わたしといっしょにいたいって言ってくれたから。
セカイにとっても特別な思考を持つこの少女が、平凡なわたしを必要としてくれたから。
だから、その言葉にうなずくことに抵抗はなかった。
「ありがとう。レイ」
わたしの答えに、ミリアはやさしい声になり言った。
「行こう、レイ。いつの日か、そう遠くない未来に。この月世界の外へ、地球へ……」
これはわたしたちの始まりの記憶。
わたしとミリアの二人で誓った言葉。
この
七年前。二人がまだ中学生の頃の話だ。
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