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「いやぁ、美味い」
「ありがとうございます」
飾らない、ストレートな褒め言葉。たった一言でもこっち側の人間としてはとても嬉しい訳で。
「久しぶりだからなぁ、すっごい沁みるって感じがします」
「ふふふ、それはようございました。タマキさん、最近お仕事お忙しいのですか?」
「あ、や、まぁ仕事じゃないんですけど。最近、家の中が忙しくて」
え、彼女?
「あ、違います違います!」
じゃぁ彼氏?
「ちが、そうじゃなくて! ね、ねこですっ」
「ねこ?」
ねこって猫? タマキさんが?
「ま、まぁ驚かれるのも当たり前かも知れません。今まで猫はおろか、動物自体飼ったことがありませんし、大体動物は好きでも嫌いでもありませんでしたから」
確かに驚いた。今までタマキさんから動物の話は聞いたことないし、趣味と言う趣味もないって前に言っていたから。だから給料はほとんど食費で消えるって。
「それじゃぁどうして猫ちゃんを?」
「そ、それが・・・笑わないでくださいよ?」
大丈夫。ポーカーフェイスには自信がある方だから。
タマキさんは少しだけ言いづらそうに唇を引いて、頭を掻きながら言った。
「実は、拾ったんです・・・今日みたいな雨の日に。あ、ちょっと笑いましたね」
いやいや、そんなドラマみたいなことが本当にあるだなって驚いただけで。
タマキさんは少しだけ頬を赤くしてグラスを煽った。
「最初は別に何も思わなかったんです。猫がいるなー、くらいで。でも雨の中、ぐっしょりと濡れた段ボールの中でミィミィ鳴いていたから。このままだったら死んじゃうかもって思って。声も凄くか細かったし。でも自分が世話できるわけでもないから通り過ぎようとしたんですけど・・・なんだか放っておけなくて。ちょっとだけ覗いてみようと思ったら、そのまま家に連れて帰っちゃってました」
えへへ、と照れ笑いを零してタマキさんは続ける。
「手のひらにすっぽりと収まるくらいの小さな体で、それでも必死に生きていて。なんとなく守らなきゃって思って。それに、会社から近いってだけで決めた物件がペット可な所だったし」
「猫ちゃんと出会うために選んだかのようなお部屋だったんですね」
「偶然ですけどね」
いやいや、人生は必然の連続だって言葉もありますし。
「だから最近は猫中心の生活で。飲みにも歩かないし、もっぱら自炊ですよ。この俺が」
そうか、それで最近ご無沙汰だったわけね。
「今日は病院に猫を預けているから、やっとここに来られたって感じで」
その割には“やっと”って感じじゃないけどね。
「よろしければお写真とか、見せてもらえませんか? どんな猫ちゃんなんでしょう?」
「あ、見ます? 見ます? グレーで目が青くて、最初に拾った時は汚れていたから分からなかったけど綺麗になったらめっちゃ美人で」
だよな、どんな人でもうちの子は可愛いもんだよな。
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