暖かい手のひら
カゲトモ
1ページ
「ありがとうございました。お気を付けて」
静かな店内に扉のベルの音が響いた。ゴールデンウィークや大型連休が明けてすぐの平日は、大体いつもこんなふうに静かだ。
皆、休み明けの仕事の後は早く家に帰りたいのだろう。きっと通常のリズムに身体がすぐには順応しないから。五月病なんて言葉があるけれど、きっとそれは本当だ。日常に戻るのが嫌なんじゃない。そのリズムに乗れないのが嫌なんだ。
人間は、良い意味でも悪い意味でも“慣れる”生き物だから。
だから多分、通常のリズムもすぐに取り戻せるんだと思う。一週間後にはもうゴールデンウィークのリズムなんて忘れているはずだもの。
かろん。
「いらっしゃいませ」
「こんばんは、あれ? もしかして貸し切りですか?」
「そうなんです、タマキさんの為に貸し切りに致しました」
なんてね。
「ふふ、今日月曜日ですもんね。それに雨も降っていますし。俺のとこでも皆定時で上がりましたよ」
タマキさんは紺色のハンカチでポンポンと身体と持ち物を手早く拭いてカウンターに向かって来た。どうやら弱い雨だと思っていたけれど、結構降っているらしい。
「タマキさん、よろしければタオル、お使いになってください」
「いやそんな、申し訳ないし」
「いえいえ、お風邪を召されては大変でしょう」
タマキさんは仕事熱心だしね。最近仕事が忙しいのが結構久し振りな感じするし。それとも彼女が出来たとか? いや、俺タマキさんの何なんだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます