暖かい手のひら

カゲトモ

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「ありがとうございました。お気を付けて」

 静かな店内に扉のベルの音が響いた。ゴールデンウィークや大型連休が明けてすぐの平日は、大体いつもこんなふうに静かだ。

 皆、休み明けの仕事の後は早く家に帰りたいのだろう。きっと通常のリズムに身体がすぐには順応しないから。五月病なんて言葉があるけれど、きっとそれは本当だ。日常に戻るのが嫌なんじゃない。そのリズムに乗れないのが嫌なんだ。

 人間は、良い意味でも悪い意味でも“慣れる”生き物だから。

 だから多分、通常のリズムもすぐに取り戻せるんだと思う。一週間後にはもうゴールデンウィークのリズムなんて忘れているはずだもの。

 かろん。

「いらっしゃいませ」

「こんばんは、あれ? もしかして貸し切りですか?」

「そうなんです、タマキさんの為に貸し切りに致しました」

 なんてね。

「ふふ、今日月曜日ですもんね。それに雨も降っていますし。俺のとこでも皆定時で上がりましたよ」

 タマキさんは紺色のハンカチでポンポンと身体と持ち物を手早く拭いてカウンターに向かって来た。どうやら弱い雨だと思っていたけれど、結構降っているらしい。

「タマキさん、よろしければタオル、お使いになってください」

「いやそんな、申し訳ないし」

「いえいえ、お風邪を召されては大変でしょう」

 タマキさんは仕事熱心だしね。最近仕事が忙しいのが結構久し振りな感じするし。それとも彼女が出来たとか? いや、俺タマキさんの何なんだよ。

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