3-6.
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膝下スリムデニムパンツに春らしいシャツ、コート姿の宮――華奢で小柄、年の割に幼さを感じさせる彼女によく似合った、また彼女らしいとも言える派手過ぎないコーディネートで、ちょっと大人っぽくしようとしているのが伺えるのもどこか微笑ましい。
肉付きのいい太もも露わなショートパンツに真っ白のパーカー、頭と足元とはそれぞれ真っ赤なキャップとスニーカーで固めるミヅキ――こちらも派手な色好きの彼女らしい格好だ。兄としてコメントするとしたら、白い足が眩いからもう少し露出を減らした方がいいと言ったところか。
注目すべきは、いつ何時もそのロングヘアをまっすぐに垂らしておくのを好む彼女が今はツインテールなところだ――この状況に至る経緯は次の通り。
宮:「ミヅキちゃん、もしよければだけど、髪を二つ結びにしてみない?」
ミヅキ(以下ミ):「え。何で?」
宮:「特に理由があるわけじゃあないんだけど、ただ、スッゴい似合いそうだから……」
ミ:「(少し考えるようにしてから)いいけど。やったことないから、宮さんやって」
宮:「やったぁ! じゃあ、ちょっと後ろ向いててね――」
ミ:「(黙って髪をいじられる)」
宮:「(できあがったミヅキの髪型を見ながら)できた! ううう、ミヅキちゃん、可愛すぎるよ……!(感激のあまり身をすくめながら)」
結び目の位置は最下層。二つの赤毛の尻尾は宮(黒毛ミディアムショート。普段髪は結んでいない)が何故か携帯していた白いリボンで形作られていて、どちらかと言えば性格ボーイッシュなミヅキがあら不思議可愛い女の子に早変わりといった感じだ――とは言ってもミヅキ自身に変化は見られないのだけれど。ストレートにこだわりがあるのかと思えば別にそうだったわけでもないらしく、二つの尻尾を特に気にしていなそうに揺らして歩いている。
どこを歩いているのかと言えば、道。どんな道かと言えば、道路。どういう道路かと言えば、けっこうな登り坂。どこの登り坂かと言えば――山道だ。
空気は澄んでいて、辺りは緑に囲まれている――これ以上ないくらいに山らしい山。普通に山。そんな山の中を、ミヅキは威勢よく先頭を進む。その後に宮が続く。そして最後に――十メートルくらいの差をつけられつつ――俺がいる。
呼吸は荒い。足が痛い。めっちゃ辛い。ゼエゼエハアハア、悲鳴を上げたいのを堪えながら山登りに耐え忍んでいる。
「エドっち遅い! 早くしないと置いてくよ!」
「江戸君がんばって! 後少しだよー!」
苦痛に顔を歪める系男子俺とは裏腹に女子二人はそれはそれはとても元気そうだ――ミヅキは言わずと知れた運動好きでそのエネルギー量は並みの男では敵わないほどだし、宮もサイクリングが好きというだけあってそれなりに体力はあるらしい。
あくまで週末のハイキングを楽しんでいるかのように楽しげな雰囲気の二人に引っ張り回されているようなこの状況――どうしてこんなことになってしまったのかと言えば、複数の要因がある。
まず一つ――この日の目的は他でもなく荒川を探すこと。昨晩ツーに居場所を教えてもらったので、早速今日の朝から行動を開始。毎週恒例ミヅキ指導の朝練を休むことになるので彼女に正直に理由を話すと、意外とあっさり承諾してくれた。ただし条件として彼女もついてくることに。宮とも合流して、今現在向かっている真っ最中だ。
二つ目――荒川の居場所を教えてもらったはいいものの、その場所が場所だった。百歩譲って電車に乗らないとならなかったのは良しとして、その駅からもまたかなり離れている所だった――やむなく俺たちは最寄りの駅に到着後、タクシーを拾い、その場所へ向かうことに。
三つ目――目的地は山の中にあった。山の中という意表を突くような事実はとりあえず置いておくとして、山の中イコール山道を登らないといけないということ。まあ車だし、そこまで問題はないように思われた。
四つ目――問題が発生。山へ差し掛かった途端、ミヅキが歩いて登ろうと言い出した。せっかくだから自然を感じるのもいいかもとか言って何のつもりか宮も快諾。二人に引っ張られるようにして、そこでタクシー下車。
五つ目――登山開始。女子二人、容赦ない。俺苦難。以上。
何とか山道を抜けた時には、時刻はもう昼を回っていた(街っぽい場所に出たというだけで、山頂まで登ったわけではない)。
さすがに女子二人もこのまま登山を続ける気は起きなかったというかそこの街並みに興味を引かれたらしく、暗黙の内にちょっとこの辺で休憩しようみたいな雰囲気になっていた。この辺りは観光地になっているらしく、開けた空間に旅館やホテルが建ち並んでいる。気が向くままに進むようにして高台に登り――惹かれるように三人揃って後ろを見た。
景色が、広がっていた――どこまでも続く景色が、そこにはあった。山の麓から、遥か彼方の地平線まで続く大地――圧倒的に自然が占める割合の多い、ただただだだっ広く伸びるだけの平原が、俺たちの視界をいっぱいにした。
東京から特急に乗って旅してくること約二時間。それだけで、景色はこんなにも変わる――都会の匂いなんてこれっぽちも残っていない。まるで天上から地上を眺める者になったかのような気分にさせられる――それほどまでに広大な範囲の世界を見渡すことのできるこの場所。
都会の街で生まれ育った俺は知らなかった。この国にはこんな景色があったなんて。少し離れるだけで、こんな景色を目にすることができたなんて。
山からの風景か――まさか、こんな場所へ来ることになろうとはな。
俺たちの住む街から北西方向に距離にして約百キロ――やって来たのはとある地方の山の上。観光名所としても名高いこの山はその名も筑波山。筑波市の中心におわします由緒のあるお山であるところの筑波山。
俺のクラスメイトの女子は、急に学校に来なくなったと思ったらどうもこんな所までやって来ていたらしい。
一体何やってんだか……。
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