3-3.


 ――――??


 「??????――」


 ??


 「――?? まさかアリスさん、ツーのこと知ってんの?」


 意表を突かれるあまりタメ口になった。でもそんなことも気にできないくらい驚いた。


 「そう聞かれる、ってことは、エドももうあの子と会ってたのね~。うふふ、偶然ね。ツーちゃんはあたしの知り合いでもあるのよぉ」


 「マジかよ……マジっすか」


 そんなこと全然考えていなかった。自称妖精、自称荒川の姉妹であるところのツーはてっきり、何の恨みか荒川家の人間を除いては俺、そして宮の前にしか姿を現してないもんだとばかり思っていた。


 ――でも。よく考えてみれば、そんな考えの方がおかしいのかもしれない。意味深な事ばかり言ってくるから、一言では伝えられない特別な思いを俺にだけ抱いているのかとでも思ってたけど。


 彼女がよく言うことを思い出せ――


 『私は自転車の妖精。自転車の楽しさをみんなに教えるためにこの世界へやって来たの。よろしくね』


 そう、ツーはいつも、みんなに教えると言っている。本当に教える気があるのかどうかは定かではないけれど、少なくともそんなこと言う限りは不特定多数の人間の前に現れていたとしても何の不思議でもないんだ。


 「アリスさん、あいつを知ってるって、いつから……?」


 アリスさんは俺を驚かせたことを喜んでいるかのように笑いながら、


 「うーん、いつからだったかしらね~。ある時あの子がふっと現れて、いつの間にか仲良くなってたから詳しくは覚えてないわぁ。でも、だーいぶ前からだったような気がするわぁ」


 「だいぶ前からってことは……あいつの姿が昔から変わらないままだってことも、知ってるってことですか?」


 「そうねぇ、妖精さんだもんね~。確かに昔からあの見た目だったわよぉ」


 「……不思議には思わないんですか?」


 「最初は思ったわよぉ。でも、本人が妖精だって言ってるし、それならそういうことなのかな~、って。今はすっかり受け入れてるわぁ」


 成長しない少女――見方によってはホラーでしかない存在をそんな簡単に受け入れてしまうという。胆が太すぎやしねえか?


 「そのことを知ってるってことは、エドもけっこう昔からツーちゃんと会ってたの?」


 今度はアリスさんからの質問。


 「いや、俺があいつに会ったのはつい最近のこと、ちょうど高校に入学したタイミングでしたね。あいつのことは荒川から聞いてんです――あれ、ってことはアリスさん、荒川とツーの関係についても知ってたんですか?」


 「んー? リンリンとツーちゃんの関係……?」


 と、不意にアリスさんの表情に微かに戸惑いが混じったように見えた――が、すぐにそんな気配は消えてなくなり、


 「んー、それは聞いてないわぁ。リンリンもツーちゃんのこと知ってるの?」


 「いや、荒川も知ってるというかむしろあいつが一番ツーのことは知ってるというか……」


 ふと疑問が湧く――ツーは俺の前に現れて早々に、自分が荒川の姉妹的な存在であることを告げてきた。アリスさんの場合はそうとも限らなかったのだろうか――しかしまあ、出会った時点で俺は荒川のことを知っていたから、という可能性もあるか。アリスさんが荒川と知り合ったのは俺よりも後、彼女の話からすればツーと知り合ったのより大分先の話になるのだから、ツーが最初に荒川のことを言及しなかったのだとしてもおかしくはない――のか……な?


 でも今、何となくだけど、荒川の名前を出した時にアリスさんは僅かに反応していたような気がしたような――本当に僅かだけれど、何か言うのを躊躇ったような、言葉を考えたような、そんな風に見えた。


 とは言っても、たまたまの仕草がそう見えただけかもしれなく全く自信はなかったので口にはせず。


 ふと意識を戻した時にはもう、アリスさんの顔には見事なパーフェクトスマイル以外の成分は微塵も混じっていなく、


 「へえ~。それじゃ、リンリンが戻ってきたら聞いてみなきゃね。そのためにはまず、リンリンを連れ戻さなきゃ。それで、最初に戻るけど、ツーちゃんが絡んでるってことは、ツーちゃんがそういう質問を投げかけてきた、ってことかしら? あたしに――フーフーもかな? 質問の答えを聞いて、そしたらリンリンの居場所を教えてくれるとか、そういうことかしらね」


 上手く躱された――のだろうか?


 しかし細かいことは気にしないというのが周知の通り我が主義なわけで。さすがはアリスさん、すばらしき推測力だと感心しつつ、


 「ほぼその通りです。しかし、ツーが絡んでるって知っただけでよくそこまでわかりますね」


 「ツーちゃんがいかにも言いそうなことじゃない~。自転車のことなら何でも知ってる妖精さんならではのやり方よねぇ。リンリンの居場所どころか、自転車好きの人ならどんな人でも探して来てくれるわよぉ、あの子」


 自転車少女の性格については、昔から知っているというだけでやはり詳しいらしい――驚かされはしたけど、アリスさんがツーのことを知ってくれていて大助かりだ。色々と説明する手間が省ける。まあ、謎の自転車少女についての事情がさらにややこしくなってしまった感もあるけれど、それはまた別の機会に頭を悩ませればいい話だ。


 今は先にやらなければならないことがある。アリスさんの答えさえ聞ければ、ツーに課された条件クリアとなるはずだ――まあ、俺の解釈が間違っていたら元も子もない話だけどな。


 でも自分を信じてここまで来た以上、戻ってやり直すことはできない――さあ、聞いてみようじゃないか。高校生離れした美しさを誇りながらプロ自転車レーサーをも務めるアリスさん――彼女にとって自転車とは何か、その答えを。

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