2-6.
とりあえず近くにあった公園のベンチに腰を落ち着けた俺たち。手当たり次第に探してみようかとも話したものの、かなり大規模な団地であるここでそのプランは現実的でなかったため断念。今にも泣き出しそうな宮を励ますのにはかなり骨を折らされたが、努力の甲斐あって何とか気を取り直してくれたようなのでその点は良しとする。
「とりま、ここまで来て疲れたろ。コーヒーでも飲んで休憩しようぜ」
俺はさくっとコンビニによってカフェラテを二本購入。片方を宮に渡すと、大分気分を落とした様子の彼女は小さな声で礼を言ってきた。両手でカップを持ち、俯きがちにストローを咥えるその姿は、高校の制服を着ていることを除けば失敗して落ち込む小学生女子のそれでしかない。それでもまろやかカフェラテのおかげか、しばらくすればほんの少しだけ元気になってくれたようだった。
ふふふ、宮が甘めが好きなのは承知済みなんだぜ。
「ああん、ホントにごめんね、江戸君。心配のあまり大事すぎることを忘れてた……うぅ」
ショゲた宮というのは年下女子を守りたい欲に駆られる世の男子たちの理想のイメージに限りなく近似しているかもしれないということを俺は発見したがそれはもう少し詳細な検証のために一旦忘れるとして、
「まあそんなに気にすんなよ。そういうこともあるって」
本心はあるわけねーだろザケんなに一票を上げていたけれど、ここでそんな酷ことを言うような俺ではない。めったに味わえない公園デートシチュエーションと引き換えに、そんな本心は摩訶不思議の海バミューダトライアングル辺りに飛ばしておいて。
「でも、どうしよ。ここまで来たのに、これじゃリンちゃんに会えないよ。うーん、連絡さえ取れればなぁ……一気に解決なのに」
宮のその言葉に俺はとある考えに辿り着き、
「アリスさんにも聞いてみるか。あの人ならもしかしたら、荒川の住所まで聞いてるかも」
「あっ、確かに。ナイスアイデア!」
宮の後押しも得て、すぐに携帯でアリスさん宛てにメッセージを送ってみた。荒川と連絡を取ることが比較的多いというアリスさんなら、もしかしたら荒川の家の場所どころか家族構成、部屋の間取りといった家庭内事情及び荒川のパジャマの柄やスリーサイズくらいまで余裕に聞き出しているかもしれない。いやさすがにないか。
さて、どうだろうか――と期待に胸を膨らませるのも束の間。ビックリするくらい早く返事は来た。
『ごめんなさい~住所までは知らないのぉ。どうしたの? リンリンの家、わかんないの?』
問題解決ならず。
まあ、知り合ってからまだ一カ月も経ってないのに住所まで知ってる方が珍しいというものか――
『実はそうなのです。地元の街までは来れたのですが、絶賛路頭に迷い中です』
送信。
三十秒も待たずに返事が来た。
『そうなんだ、残念~。これからどうするの?』
『せっかくだし宮とのデートをもう少し堪能しようかと』
『いいわね~、フフ。楽しんで!』
ありがとうございます、と送ろうとしたところ、その前に続けて三件連続でメッセージがやって来た。
『あっ』
『リンリンの家、わかるかも。ちょっと待ってて!』
『まだ練習中だから、三十分くらいかかるかもだわ』
これはどうしたものか――わかるかもということは何かしら荒川の住所を探す方法を思いついたのだろうけれど、一体どうやって知ろうと言うのだろう? ていうかその前に、まだ練習中ってアリスさん、トレーニングしながら携帯いじっていたのか……?
しかし普通なら、そんなことできるのか、または手抜いてるだろと思ってしまいそうなところだけど、アリスさんに限っては嘘偽りなく本気でトレーニングしながら片手で携帯をいじっている姿が想像て来てしまう――いつも部室で汗だくになりながら、しかし暑苦しいどころかこちらまで爽快な気分になってしまうような清涼成分に満ちた笑顔でいる彼女のことだ。それくらい普通にやってのけそうだった。
それきりアリスさんからのメッセージは一時断絶状態となる。おそらくトレーニングに集中しているのだろう――というかしなきゃいけないのだろう。三十分くらいということだから、それまで俺たちは時間を潰さないといけない。さて、この状況で最も適切な時間潰し方法とは一体如何なるものか――
「アリスさん、何て言ってた……?」
隣で宮が不安そうにしている。
携帯を仕舞い、立ち上がった俺は鞄を片手で持ちつつ肩に引っかけ、もう片方の手はズボンのポケットに突っ込み、まっすぐに伸びた背筋がたくましい長身イケメン風に振り返り様、キョトンと見上げてくる彼女に言った。
「わかるかもしれないから三十分くらい待ってだとさ。その間暇だし、この公園の散策でもしてようぜ。広くて色々ありそうだ。こういうトコも好きなんだろ? だから、ほら、元気出せよ。お前に泣き顔は似合わないぜ」
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