我、剣術を学ぶその1
「父さん、一つお願いがあるんだけど……」
それは我の誕生日の次の日のことだった。
時刻は六時を過ぎた頃。この時間になると、ガランは庭で剣の素振りをしている。
我はこの時間帯を狙いガラン元にやって来ていた。
「こんな早朝から何の用かと思えばそんなことか。父さんにできる範囲ならいいぞ」
「ありがとう、父さん。……実は僕、父さんに剣術を習いたいんだ」
「俺に剣術を? いきなりどうしたんだ、アルマ?」
我を訝しむような視線で見つめるガラン。
昨日五歳になったばかりの息子から突然剣術を学びたいと言われれば、不審に思うのが当然だろう。
「剣術というのは危険が付きまとうものだ。もし遊び半分のつもりなら、父さんは教えるわけにはいかない」
「違うよ! 僕は本気で剣術がしたいんだ! そして将来、父さんみたいに困ってる人を助けられる立派な人間になりたいんだ!」
「ア、アルマ、お前本気なのか?」
無論嘘である。魔法に関しては前世の我と同等にまでなった。一時期はこれでいつでも魔王の座に返り咲けると思ったが、我はすぐにその考えを改めた。
なぜなら、今の我はあくまで魔王だった頃の我と並んだだけなのだ。仮にこのまま魔王に戻ったとしても、結局は同じ道を辿るだけ。それでは意味がない。
他の魔物たちを守るのならば、前世の我以上の力を身に付けるしかない。
前世の我はアイリーンと同じ後衛でこそ真価を発揮する魔法師だった。そのため近接での戦闘に滅法弱く、我はそこを突かれてガランに倒された。
そこで我はガランの剣術に目を付けた。
ガランから剣術を学べば、我は近接で戦う手段を手に入れることができる。そうすれば弱点はなくなり、再びガランやアイリーンと戦うことになったとしても負けることはないだろう。
新しい力をわざわざ宿敵に教えてもらえる。これ以上ないくらい完璧な作戦だ。
「しかしアルマはまだ五歳だしなあ……」
我の年齢を考えた上で、ガランは答えを渋る。
そんなガランに、我は秘密兵器――『何でも言うこと一回聞く券』を差し出す。
「ア、アルマお前これは!」
「昨日これをくれた時、父さん言ってたよね? どんなお願いでも聞いてくれるって」
「ぐ……!」
我の言葉にガランは押し黙る。昨日捨てずに取っておいて良かった。
「昨日の言葉は嘘だったの、父さん?」
「……仕方ない。お前には少し早い気もするが、何でも言うことを聞くと言ったのは俺だ。約束は守ろう」
「やったあ!」
我は諸手を上げて、喜びを露にする。
「今から模擬剣を取ってくるから、少し待っててくれ」
「うん分かった。待ってるよ」
そう言って、我は家へと戻るガランの背中を見守るのだった。
魔王の我が勇者の息子に転生だと!? エミヤ @emiya
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