我、修行するその2

 魔力量増加の修行を始めて三年の月日が流れた。

 我は二本足で歩けるようになり、それを期に魔力成長期も終わりを迎えた。

 現在の我の魔力量は前世と同等のものとなっていた。

 これほどの魔力、何か強力な魔法を放ちたい衝動に駆られてしまう。場所は獣や魔物がいる村の外が最適なのだが、我は未だに村から出たことがない。

 三歳にもなれば多少はしゃべれるので、何度か村の外に出たいとおねだりしたが、ガランかアイリーンのどちらかが同伴することが条件とのこと。

 それでは外に出る意味がない。我は強力な魔法を試すために村の外に出たいのだ。二人がいては魔法を使えない。

 しかしある時、そんな我にとって都合のいいことが起こった。

 ガランとアイリーンが数日間家を空けるそうだ。

 理由は強力な魔物が現れたため、そいつの討伐に協力してほしいという国王からの救援要請。

 さすがに戦場まで三歳児を連れて行くわけにはいかないので、ご近所さんのヴェルティ夫妻に預けることになった。

 この夫妻も昼間は畑仕事で家を空けている。そのため家には我と、我より五つ年上の夫妻の娘、ウィンリしかいない。

 そして現在、我はウィンリの目を盗んで家を抜け出し、村から少し歩いたところにある森林に来ていた。

「ふむ。どこかに手頃な獲物はいないものか……」

 周囲を見回すが魔物はおろか、獣すら見当たらない。

 そこで我は探索魔法【サーチ】を発動する。【サーチ】は使用者の半径一キロ圏内存在する生物の位置を探知できる。

「……見つけた」

 【サーチ】に反応があった。ここから三百メートル北西。そこに全長二メートルほどの生物がいる。

 我は早速その生物がいる場所に向かうことにした。




 【サーチ】に引っかかった生物の正体はクマだった。

 クマは木に実っていた果実を食べている最中だったが、我が近くに来たことに気付くと、こちらに殺気を向けてきた。

 これが普通の三歳児ならば泣き叫ぶところだろうが、残念ながら我はそのような矮小な存在ではない。

 むしろ、眼前のクマをどんな魔法で仕留めようか悩んでいるところだ。

「火属性で焼き殺す……いや、風属性で細切れもいいな。雷属性は……火属性と変わらないな」

 久しぶりに強力な魔法を使うのだ。どうせなら一発デカいのを当てたいところだ。

「……そうだ闇属性はどうだ?」

 魔法は大きく八つの属性に分かれる。

 基本的なものは火・水・雷・土・風の五つの属性。一般的な魔法師はこの中から自身に適正のある魔法を極める。

 これらに追加で無属性、光属性、闇属性の魔法が存在する。

 無属性は他の属性と比べると個性と呼べるものが存在しない。それというのも無属性は他の七つの魔法のどれにも属さないものを指すためだ。

 例としては我が先程使った【サーチ】などがこれに当たる。他にも回復魔法や身体強化魔法も無属性だ。

 光属性の魔法は女神アスティルの加護を受けた人類にのみ使用可能なもの。しかも、光属性の魔法は我ら魔物にとって唯一の弱点でもある。

 詳しくは知らないが、かつて我を殺した聖剣も光属性の魔法の一種らしい。

 最後に闇属性だが、これは光属性とは対をなす属性だ。邪神ヴァルパーの眷属である我ら魔物にしか使えない魔法となっている。

 我は前世では光属性以外の全ての魔法に適正があった。今世でも基本となる五つの属性に適正があることはすでに確認した。無属性に関しては先程使った【サーチ】で証明されている。

 あとは前世でもっとも得意だった闇属性が今の我にも使えるか。かつて魔物だった我に光属性の適正があるのか。

 とりあえず闇属性から試してみよう。

「グルルルル……」

 我が考え事をしている間に臨戦態勢を整えたようだ。もういつ飛びかかってきてもおかしくない。

 だがそれをものともせず、我は悠然とクマへと歩を進める。

 クマは我が攻撃の射程圏に入ると、その凶爪を振るう。

 しかし歩みを止めることなく、我はクマに向けて手を伸ばす。次の瞬間、我の手から漆黒の球体が現れ、クマの元へ移動する。

 球体はクマの爪が我に届くより先にクマに触れると膨張し、クマを

 闇属性最上級魔法【ブラックホール】。

 あらゆるものを飲み込む闇を生み出す魔法。

 かつて我はこの魔法を使い数万の人の軍勢を壊滅させたこともある。……クマに使うのはやりすぎだったか?

「まあいいか」

 闇属性の適正を確認できたのはかなりの収穫だ。それに久々に最上級魔法は気持ち良かった。

 その後も我は獲物を見つけては様々な魔法を試すのだった。

 



 

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