3.8 仲はよくとも立場はぶつかる

 シモフはイーレイをおっていた。王都アクソネの騎士団がイーレイを監獄にぶちこんだ直後、警備の補助にきていたというエルボー駐在の騎士三人が、イーレイはこちらで拘束する、と申しでたということだった。しかし王都の監獄は戦争が起きたって埋まらないほど広く、むろんイーレイをうつす必要などなかった。三人は納得した様子で帰ったが、そののちは――のべる必要もなかろう。



 トゥエンはシモフをとまっている部屋にまねいた。途中で酒をいくつか購入した。ハチミツ酒がひとビンに、昼に誰かが注文していたトラハヒェブがひとビンだった。もどると、トラハヒェブをテーブルの真ん中において、四隅にろうそくの炎を立てた。ハチミツ酒のビンをあけつつ、トゥエンはイスに腰をおろした。クレシアは右の寝床につっぷしてしまった。



 トゥエンがそれぞれに酒をそそぎながら、自分の知っていることを並べた。シモフは、王につかえる騎士団がそんなことするわけない、と反論するものの、トゥエンはまちがいなく現場を見てしまっていた。シモフの知っていることを織り交ぜながら、騎士団はあらかじめ襲撃をおこすことを知っていて、捕まったイーレイを騎士団が拘束をよそおってたすける風によそおうつもりだった、と訴えた。



「もしそうだとしたらまずい。お前と、その連れの方とあうまえに駐在所にいったのだが、誰もいなかったんだ」



「朝にはいたぞ。ただ、人もほとんどであるいてない時間の道ばたにつっ立ってた。特別警備しなきゃいけないものもなかったようなのだが」



 トゥエンはのけぞって酒を胃にながしこみ、われそうな勢いでテーブルにたたきつけた。ビンの中がぐらり波うち、シモフの前にあるグラスがはねた。慌てるシモフだったが、ときすでに遅く、グラスはコケてしまう。



 トゥエンはグラスになみなみと注いだところで、イーレイの馬の尻を思い出した。



「あと、イーレイがどこかにでかけたみたいだった。馬にのって」



「お前、あの男を外にだしたのか?」



「責任なら騎士団だ。オレがきたときには、初日のことだが、もうイーレイは自分の醸造所にいた」



 シモフはグラスをつかみあげ、トゥエンのあとをおうようにしてグラスをあけた。息まじりに声を吐いてからトゥエンにグラスを差し出した。八分目までトゥエンがそそいだところ、すぐにその半分を飲みほしてしまった。



「なら、今のうちに駐在所を見てきたほうがいいな」



「誰もいないとオレは思うな」



「でも、誰かがいれば身柄を確保していろいろと聞きだせる。それ以前に俺は騎士団員だ、駐在所に出入りしてもなんらあやしまれることはない」



「ああ、そうだな。オレらは騎士団員じゃないから、そこらへんのところまで踏みこめない。使える情報が手に入ったら教えてくれよ」



 トゥエンはクレシアに目を向けた。ろうそくの明かりで顔はかろうじて見ることができた。彼女はあおむけによこたわっていて、トゥエンを見ている様子はなかった。寝ているわけでもなく、まぶたは、日中ほどではないが、ぱっちりとひらいていた。



 左からやってくるズガガという音が耳にさわって、視線を横にずらした。



「できればお前もついてきてくれると心強いのだが、トゥエン」



「オレは騎士団員じゃない。それに、連れの面倒を見ないと」



「剣の魔物ねえ、初心者ならちょくちょくあることさ。でもなあ、お前が剣の弟子をとるとは思わなかった」



「オレもはげしく同意だ」



「お前がいうな。じゃあ、ちょっくらいってみる。掘り出し物があってもなくても立ち寄るから、それまではおきててくれよな」



「そうしとくよ」

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