9、王都



「ん~!よく寝たー!」


俺は大きく伸びをする。ぐっすり寝れたおかげでかなり快調だ。


「やっと起きたか」


軽く悪態をつきながらサバが現れる。


「おはようサバ。どこ行ってたんだ?」

「なに、ただの朝の準備体操だ。ほれ」


そう言うとサバは呪文を軽く唱え、指で空中に円を描いたかと思うとそこから果物を取り出した。

そしてその果物をそのまま俺に投げ渡してくれる。


「え?いいのか?」

「食わぬと力が出ぬからな。食える時に食っておけ」

「ありがとう・・・お前マジでいい奴だな」

「やめんかむず痒い!」


サバは照れてそっぽを向く。

こういうところ見てると龍王・・・?ってやつには到底見えないんだよなぁ。そもそも龍じゃなくてトカゲだし。

でもいろんな魔法を知っているし、本当はすごい奴なのかも・・・だとしたらなんであんな初級魔法で呼び出せたんだろうな。

まぁ、今はどうでもいいや。さっさと食べて出発しないと。


***********


「よし!飯も食ったし、そろそろ出ようか」

「うむ。今日中に王都に辿り着くように歩くのだぞリアン!」

「おう!・・・って、今名前・・・!」

「と、特に深い意味はないぞ!小僧だと呼び辛いから仕方なくだな・・・!」

「そうかそうか、でも嬉しいよ」

「・・・お前は恥じらいというものを知った方がよいぞ」


お前はもっと素直になればなー、なんて小言を言い合いながら出発する。

喋り相手がいるからか長い道のりも結構短く感じた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「うわぁ!!でっか!!」


目の前にそびえ立つ巨大な門をあおぎ見ながら叫ぶ。

俺たちは日が暮れる前にはなんとか王都こと“ 森王都しんおうとグラフィリオ ”に辿り着いた。

遠くから見てた時は気づかなかったが、まさかここまで大きな門だったとは・・・

中は一体どうなっているんだろう?入るのが楽しみで仕方がない。

早速入ろうとするが、入り方がわからない。


「これどうやって入るんだろうな?」

「ふむ、あそこに立っている人間に聞いてみてはどうだ?」

「あ、本当だ。行ってみよう」


門番さん?ってやつかな、すっごい重そうな鎧を着ている。

早速話を聞いてみることにした。


「すみません、この中に入りたいんですけど」

「ん?こんな時間に珍しいな。通行証は持ってるかい?」

「通行証・・・?」

「あれ、もしかして持ってない?それじゃあ通すことは出来ないよ。」

「その通行証とやらはどこで手に入るのだ?」

「うお!?トカゲが喋った!!」

「トカゲではない!我は常闇の龍お・・・」

「通行証はそこの関所で発行出来るけど審査があるんだ。受けていくなら向こうにいる兵士にお願いしてみてくれ」

「・・・無視をするでない」


審査か・・・身分を証明できるようなもの一切持ってないけど大丈夫かな。

関所で暇そうに欠伸をしている兵士に話しかける。


「あの、通行証の発行をお願いしたいんですけど。」

「あぁ、通行証ね。身分を証明できるものは出せる?」

「それが・・・持ってなくて・・・」

「えぇ!?まいったな・・・ギルド証とかもない?」

「・・・はい」

「うーん・・・それじゃあ通せんなぁ。出直してもらっていいか?」

「そ、そこをなんとか・・・!」

「そういわれてもなぁ」


俺は全力で嘆願する。難しいことを言ってるのはわかってるけどここに入らないと話が進まない!!

しつこく兵士にお願いしていると後ろから突然声がした。


「君、中に入りたいの?」


振り向くとフードを深く被った女の人が立っていた。


「は、はい」

「兵士さん、通行証に人数制限は無かったわよね。この子はアタシの連れ添いということで、通っていいかしら?」


女の人は兵士に通行証を見せる。


「あ、あぁ。本物のようだな、通っていいぞ」

「ありがと♡」


俺はその流れるような光景を呆然と見つめていた。

すると先に通ろうとしていた女の人に呼ばれる。


「ほら!なにつっ立ってんの、中に入りたいんでしょ?」

「あ、はい!」


俺は小走りで女の人を追いかけた。この人、一体何者なんだ?


「あ、あの」

「君、どこから来たの?ボロッボロだし・・・観光には見えないけど」

「あー・・・えっと色々わけが・・・そ、そんなことよりさっきは本当に助かりました!ありがとうございます!」

「いいのよアタシも入るところだったし!あと敬語はよして頂戴。堅っ苦しいのはあまり好きじゃないわ~」

「あ、すみまs・・・ごめん」

「よろしい!アタシはローズ。君は?」

「俺はリアン。で、こっちのが・・・」

「我は常闇の龍王サーヴァルドだ」

「え!?トカゲが喋った!やだ面白~い!!」

「こ、こら!つつくでない!!」

「こいつのことはサバでいいよ」

「おい!定着させようとするな!!」

「リアンにサバちゃんね!よろしく!」


フードのせいで怪しく見えたけど、普通に明るくて優しいお姉さんだった。


「ローズは何しにここへ?」

「アタシ?アタシはここにある魔術教団に用があってね」

「え!魔術教団!?」

「我らもそこに用があるのだ!」

「着いていってもいいか?」

「いいわよ!早速向かいましょうか」


まさかローズも魔術教団に用があるとは・・・結構頻繁に人が出入りする所なのかな?

てかそもそも魔術教団って何なんだ?

行く前にローズに聞いてみた。


「なぁ、魔術教団って何をしてる施設なんだ?」

「あら?知らないでここまで来たの?」

「あぁ。知り合いに行くように言われたんだけど詳細を聞いてる場合じゃなかったから」

「そう、まぁその名の通り魔術全般の研究をしている場所よ。他にもポーションやスクロールみたいなアイテムも売ってたりするわ。アタシはそれ目当てよ」

「へぇ~!普通の雑貨屋に売ってるのとは違うのか?」

「全然違うわね!種類が豊富だし、何より効き目が段違いよ。スクロールだって簡単に上級魔を召喚出来ちゃったりするんだから!」

「なにそれ怖い!」

「まぁ、お値段がちょーっと張るから簡単には手が出せないんだけどね」

「へ、へぇ~」

「リアンたちは何か事情があって行くんでしょ?気になるけど、あまり詮索しないでおくわ!」

「助かるよ、結構複雑だから。サバでさえちゃんと把握してないと思うし」

「そうだな。そのうち詳しく説明してもらうぞ」

「そうなのね、アタシで良ければいつでも相談に乗るから気軽に言うのよ?」

「うん、ありがとう!」


こうしてローズと色々話しているうちに魔術教団に到着した。

もう夕方なのに結構活気に満ちている。流石王都。


「ここが魔術教団の入口。受け付けはあっちよ。アタシは向こうの露店に行くからここでお別れね!」

「あぁ!ここまでありがとう!本当に助かったよ」

「いいのよ!また何処かで会いましょう!」

「うん!それじゃ!」


名残惜しいけど俺たちはローズと別れた。本当に良いお姉さんだったな。

是非また会って話したい、そう思うくらいに馬が合った。

でも、俺には早急に片付けないといけないことがある。


「よし、話を聞こう」

「うむ!」


俺たちは真剣な面持ちで受付まで足を運んだ。


***************


「すみません」

「こんにちは!魔術教団へようこそ。本日はどのようなご用件ですか?」

「ルーティア村の神父さんからここに来るように言われたのですが」

「え゛!?ルーティア村!?ちょちょちょちょっと待っててください!!はぅあ~・・・あああアレクさん!アレクさん~!!」


受付嬢は突然慌てた様子で横に置いてあるヒヨコのぬいぐるみに話しかけている。なんだろあれ、電話か?

ルーティア村って言った瞬間からこの慌てぶり・・・神父さんはどこまで知っていて誰に何を話したのか全く分からないから少し不安だ。


「あ!アレクさん!!聞こえますか?今受付にルーティア村から来られた方がいらっしゃってまして・・・はい、はい。名前?あ、ちょっと待ってくださいね!・・・すみません、お名前をお伺いしてもよろしいですか?」

「リアンです。」

「ありがとうございます!・・・リアンさんです!はい!お願いします!・・・今すぐ来てくださるようなのでちょっと待っててくださいね!」

「わかりました」


そう言われて数分もしないうちに電話越しにいたアレクという名前の男性が現れた。


「待たせたね!君がリアンくんかい?」

「あ、はい。そうです」

「ルークから話は色々聞いていたよ!思ってたより幼いな!ハハハ!」

「ごふッ!」


めちゃくちゃ強い力で背中をバシッと叩かれる。普通に吹っ飛びそうだったわこんにゃろ。

地味にディスってくるし何なんだこの人。


「え、えと。ルークって神父さんのことですか?」

「そうさ!あいつとは昔からの友人でね。まぁ、ここでは何だし僕の実験室でゆっくり話そう。人目もあるしね」

「は、はぁ・・・」


俺は警戒しながらも素直にアレクの後ろについていく。館内はかなりの広さだから移動するだけでも一苦労だ。

5分くらい歩いただろうか?少し大きめのドアの前でアレクは立ち止まった。


「ここだよ。僕の自慢の実験室へようこそリアン!」


アレクがドアを開くとそこには様々な実験用の機器や本棚一杯の参考書、さらに大きめの水槽が何個もあってみたこともない生き物が沢山泳いでいた。まさに男心をくすぐる秘密基地みたいな実験室だ。ちょっと・・・いやかなりワクワクする。


「凄い・・・!!なにこれ生きてんの!?」

「生きてるよ!それはレイガントフィッシュ、ここら辺の湖に生息している魚型のモンスターさ。まだわからないことだらけだから飼育しながら研究しているんだ。他にもモンスターや魔物まで幅広く研究しているんだよ!」

「へぇ~魔法だけじゃないんだ!アレクって凄いんだな!!」

「いや~それ程でも~!でも少し緊張がほぐれたみたいで良かったよ!」

「あ・・・」


普通に敬語が抜けてた・・・テンションが上がっちゃってつい。

でもアレクは何となく喋りやすいんだよな。神父さんの友人なのは間違いなさそうだ。

俺はアレクにうながされて椅子に腰かける。


「僕には自然体で接してもらって構わないよ。さて、君がここに来たということは何かあったんだろう?」

「あ、あぁ・・・それが・・・」


俺は村で起こった悲劇を全て話した。

モンスターのこと。シスターのこと。村人たちや神父さんのこと。そして、俺の体の異変のこと。

俺が話している間アレクはただ黙って頷き、終始険しそうな顔をして聞いていた。

そして俺が話し終えるとアレクは「そうか・・・」と一言だけつぶやうつむいてしまった。

しばらくの沈黙の後、ゆっくり口を開いた。


「・・・実は、ルークから話を聞いた時少し心当たりがあったんだ。ただ、これはお伽噺みたいなものだと思い込んでいたからルークにも伝えなかった。でも、今の話が本当だとすると・・・」

「お伽噺・・・?」

「そう、魔族の間では結構有名な話らしい。サバくん、だったかい?彼なら知っているかもしれないね」

「我は強い魔力を有していたがゆえに長いこと一族から離れていた。あまり俗世のことには疎い。」

「あはは、そうか。でも今から話すことはきっとリアン、君のことを指しているんだと思う。聞く準備はいいかい?」

「・・・はい。お願いします」


俺はアレクの話を聞き逃さないように集中する。

きっとこれで俺が誰なのかわかるはず・・・!

期待と不安が入り混じった感情で心臓がドクドク鳴りだしていた。


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アイザー・ライフ -異世界から来た俺が魔王- @Re_lLeN

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