7、出会えて良かった



無事魔法講習も終わって一段落した俺は見事に暇を持て余した。


魔法講習の後シスターをデートに誘うという計画もシスターを頼りにしている村人達にすぐに連れていかれてしまい失敗に終わった。でもまぁ、いつものことなんだけどね。

シスターは基本的に村のことなら何でもこなせてしまう程に器用だし人当たりもいいから村人たちに常に頼りにされている。

だから日中はずっと忙しそうなんだ。俺も手伝えることは手伝うけど、シスターに来て欲しいって人が多いから安易に手伝えない。

そのくらいシスターの人柄が愛されているんだろうな。


でも、


「折角の天気だし、シスターとデートしたかったなぁ・・・」

「うるさいぞ小僧!これでそのセリフ5回目だぞ!」

「いいじゃんか、俺は今悲しみに暮れているんだ・・・涙が目に沁みるぜ・・・」

「色恋にうつつを抜かしてる暇があるならメシを作らんか馬鹿者」

「お前本当頭ん中メシのことばっかだな」

「考えてても腹は膨れぬ!」

「それもそうだ」


サバの言うことに地味に納得してしまった。

確かにそろそろ飯時なんだよな。何か作るかー。


「今日はオムライスとか試してみようかな」

「なに?オム・・・?それは美味いのか?」

「すげぇ美味いよ、ただケチャップとか無いからある程度工夫しないと。トマトを煮て潰せばそれっぽくなるかな?」

「ふむ、よくわからぬが美味いのなら何でもよい!楽しみにしておるぞ!」

「任せとけ!」


俺はせっせと作業に取り掛かる。料理は実家でよくやってたから結構得意だ。

料理を振舞うとみんな喜んで食べてくれるから嬉しくて、気が付けば大抵の料理は作れる程の腕前になっていた。

シスターと神父さんにも食べてみて欲しいしオムライスおにぎりにでもして持っていこうかな。

俺は鼻歌を歌いながら呑気のんきに料理を進めていた。が、



きゃぁぁあああ!!



悲鳴!?

と、同時に何かが壊れる大きな音が立て続けに聞こえた。


「何だ!?」

「小僧!様子を見に行くぞ!」

「うん!」


俺はサバを肩に乗せて急いで外に出た。

勢いよくドアを開けるとそこには巨大な人型のバケモノを筆頭に沢山のモンスターが村人たちを襲っているのが見えた。建物は何棟か破壊され、火がまわり始めている。

もう何人か犠牲になってしまったのだろうか?モンスターたちの手や足には血の跡がついてる。

俺は恐怖のあまり立ちすくんでしまった。


「なんだよ・・・これ・・・!!」

「小僧!何を立ち止まっておる!!戦わんのか!?」

「俺は戦えない!モンスターを見るのも初めてだ!!」

「何!?ならば早く逃げるのだ!!我も今は戦えぬ上に、あのデカブツは様子がおかしい!!早く逃げるのだ!!」

「みんなを見捨てろっていうのかよ!!」

「貴様が行ってどうにかなるのか!?」

「っ・・・!」


クソッ!なんだよッ!!何で突然大量のモンスターが襲ってくるんだ!?

俺は情けなくもモンスターと反対方向に全力で走った。幸いにもまだ気づかれていないみたいだ。

とりあえず子供たちとシスターを急いで探そう!さっきシスターは子供たちのところへ行くと言っていたから今も一緒にいるはずだ!

俺は何度も転びそうになりながら必死で走った。


そして間もなくシスター達が見えてくる。

よかった!まだ無事だ!!


「ぜぇ・・・はぁ・・・!シスター・・・!」

「リアンさん!!どうされたのですか!?そんなに急いで」

「大変だ・・・村・・・が!モンスターに!!」

「え・・・!?」

「早く・・・!!子供たちを連れて逃げなきゃ!!」

「・・・村の方達は?」

「何人か、残されていると思います・・・でも、もう手遅れかも・・・」

「・・・子供たちをお願いします」

「は!?シスター!?」

「私は村の人達を避難させてから逃げます」

「何言ってるんですか!シスターも逃げないと!!」

「そうだぞシスターとやら!一匹桁違いの奴がおる、今更行っても死にに行くようなものだ!やめておけ!!」

「・・・それでも、誰も見捨てることなど出来ません!!」

「シスター・・・」

「子供たちを任せます。リアンさんたちは安全な場所へ!」

「・・・わかりました。でも絶対後から助けに行きます」


俺は3人の子供たちを連れて走り出した。安全な場所に連れて行ったら急いで戻らないと!!


しばらく走ると隠れられそうな小さな洞穴を見つけた。子供3人なら十分身を隠せる広さだ。

俺は子供たちに言い聞かせる。


「メリア、リリィ、タオ。ここに隠れてて。外が静かになってもしばらくは出ちゃだめだぞ。」

「リアンおにいちゃん・・・ネアおねーちゃんは?」

「ネアおねーちゃんしんじゃうの・・・?」

「お姉ちゃんは村の人たちを助けに行ってる。大丈夫、お姉ちゃんは強いから死なないよ」

「おとうさんおかーさんをたすけにいってるの?」

「そうだよ。お父さんもお母さんもすぐ戻ってくる。だからここで3人で静かに待っていられるね?」

「うん・・・だいじょうぶ」

「ぼくもだいじょうぶ」

「わたしも!」

「いい子達だ」


俺は子供たちの頭をポンッと撫でると急いで村に向かって走り出した。

急げ!急げッ!!

俺が行ってどうにかなる問題じゃないのはわかってるけど、シスターを一人にしておけない!!

最悪の状況を考えると不安で胸がいっぱいになる、一刻も早く村へ向かわないと!


そしてついに村が見えてくる。が、黒い煙がモクモクと立ち込めていて家が燃える臭いと人が焼ける臭いとが混じりあってここからでもわかるくらいの激臭がしていた。


俺は鼻を覆いながら村の中に入り、シスターを探す。

だが、煙が凄すぎてよく前が見えない。俺は全力でシスターを呼んだ。


「シスター!!シスタぁぁああ!!!」


すると、中央広場の方から人の声が聞こえた。

シスターかもしれない!きっとまだ生きてる!!

俺は全力で広場へ向かった。まだ間に合う!急げッ!!


俺は煙をかき分けて広場に着いた。シスターだ!何とか見つけることが出来た!!


しかし、


シスターは宙に浮き、地面に向かって大量の血が滴り落ちている。

おそるおそる滴る現況げんきょうのシスターの腹の方に目をやった。


嘘だ・・・


シスターの腹は人型のモンスターが持っていた大きい槍のような武器で貫かれていた。

そのままそいつはシスターの刺さった槍を大きく振り、シスターを地面に叩きつける。

それを見た瞬間俺の中で何かが爆発した。


ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなぁぁあああッ!!!!!


俺は怒りで一杯になり何も考えずに敵に突っ込む。

案の定思いっきり槍で横殴りにされ、瓦礫の山に向かって吹っ飛んだ。


「ぐぁッ・・・!」


全身を強く打ち、意識が飛びかける。俺は起き上がろうとしたが吹っ飛ばされた時に殴られた右横腹に激痛が走った。

震える手で触れてみるとヌルッとした生温い感触が手に伝わった。右横腹は原型が無い程ぐちゃぐちゃに潰れていてそこからはドクドクと大量に血液が流れだしていっている。

でもそんなの知らない。知らない。シラナイ知らないシラナイ氏ら無い!!!


「あ゛ぁぁあ゛あァァアあ゛あアぁぁあ゛あ゛ッッ!!!」


頭が割れるような酷い頭痛に襲われた。俺は頭を押さえて転げ回る。


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い


更に全身に耐えがたい激痛が走り

プツンッと何かが途切れ、俺は意識を失った。



と、同時に


「ィヒッ・・・・・イヒャヒャヒャハハハハハァァァアハアハあァッ!!!!」


全身を嫌悪感に支配されるような気色の悪い笑い声が広場に響き渡る。リアンだったソレはもう人間の形を模していない。

真っ赤な目に尖った耳、目から流れる血のような線。まさに森で見たバケモノが狂気の笑みでそこに立っていた。


先程まで致命傷だった傷が見る見るうちに治っていき、治り終わるとソレは悪魔のような笑みで人型のモンスターにもの凄いスピードで突っ込んだ。

モンスターは咄嗟に手に持つ槍でガードする。が、間に合わずモンスターの手が吹っ飛ぶ。


「ガァァアアアッ・・・・!!」

「キシッ・・・キシしシぃッ!!!しすたぁ゛シすたぁ゛ぁアあ゛あ゛アハアぁ゛ハハぁハア゛はアハ!!!」


悶えるモンスターを見てソレは笑う。

モンスターは自身の部下であるゴブリン達に指示を出しソレに向かって一斉に襲わせた。

が、見事に蹴散らされ肉と血液が雨のように飛び散った。

ソレはゴブリンの雨を浴びながらもモンスターの急所をわざと避けるかのように肉を切り刻んでゆく。


「ギィィィイ゛イィ゛イ゛ィッ!!!!」


モンスターは痛みと恐怖に支配されたかのような叫びを上げた。

しかしその悲痛な叫びもただただソレを楽しませるだけである。

ソレは最後のトドメで思いっきりモンスターの首に爪を刺し、首筋にかぶりつき、そして引き千切った。


鮮血が飛び散る。と同時にモンスターの重い巨体が倒れた。モンスターは地面でバタバタと苦しそうに暴れたがすぐ動かなくなり、広場に静寂が訪れる。

するとソレは倒れたモンスターに近づき肉を食べ始めた。自分の体格の何倍もあるモンスターを手でぐちゃぐちゃに引き千切り、笑いながら食べている。異常な光景だった。


「イ゛ぃヒヒひヒイィヒヒぃイイい゛イ゛いイィ゛イ゛・・・」


グチャ・・・ネチャッ・・・・

静かな広場に咀嚼音だけが流れる。

もう誰もソレを止められる者はいないと思われた。が、


「・・・リアン・・・さ・・・ん」


即死だと思われたシスターはまだかろうじて生きていた。

だが、もういつ死んでしまってもおかしくはない程の傷。

痛みを堪え、必死にソレに近づこうと地面を這う。


「だめ・・・ですよ・・・そ・・・なも・・・の・・・・たべ、ちゃ・・・」


最後の力を振り絞り、シスターはついにリアンの元に辿たどり着き、力の入らない腕で抱きしめた。


「リア・・・ンさん・・・・あ・・・あなたは・・・絆を・・・・たい、せつに・・・・する・・・優しい・・・・ひ・・・と・・・」



リアンの容姿が人間に戻ってゆき、正気を取り戻してゆく。



「・・・出会えて、良かっ・・・た・・・」



シスターの体から力が抜け、リアンの横に倒れた。

正気を取り戻したリアンの前にはもう動くことのない彼女の姿。



「シス・・・・ター・・・・?」



心臓が大きく波打つ。一気に血の気が引いた。



「あ・・・あぁぁ・・・シスター・・・?嘘だ・・・・嘘だぁッ嘘だぁああッッ・・・ああぁぁぁあ゛あ゛あ゛・・・!!」



俺は受け入れられない現実を目の前にたまらず泣き叫んだ。

いつの間にか雨が降り始めていて涙なのか雨なのかはもう区別がつかない。

俺はどうしようもなく冷たくなってゆく彼女をただただ抱きしめた。



もう変わらない現実と、自分の不甲斐無さを呪いながら強く、強く。



俺は死体ばかりの静かな広場で何時間も動けず泣いていた。



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