6、相棒



俺がこのルーティア村に来てから早数か月。もう景色は冬になりかけようとしている。


名前を貰ったあの日、行く当てが無く困っていることを伝えた。するとなんと、シスターと神父さんの計らいで村の住人として招き入れて貰え、さらに教会の空き部屋まで貸してくれた。

初めは慣れない生活に戸惑いもしたが、みんな優しく迎え入れてくれたのですぐ馴染むことができた。

それからの日々はこんな感じだ。

朝起きたら教会で祈ってそのままシスターの手伝いをする、その後は畑の手伝いをしたり、川で漁の仕方を教わったり、子供たちの相手をしたり・・・

まさか異世界に住むことになるとは思わなかったけどこの数か月は本当に充実していたと思う。


でも不思議だよな。この村ではよくモンスターが人を襲うって聞いてたのにこの数か月一度も見ていない。

いいことではあるけど・・・なんとなく不安になるよな。ある日一気に襲ってきた!とかなったら太刀打ちできねぇもん。

まぁいいや、そんなことより今日はずっと楽しみにしていたシスターの魔法講座だ!

一度シスターが料理の時に火を出しているのを見て俺もやってみたくなった。本当に魔法がある世界なら是非とも体験してみたい。折角なら大魔法使いとか目指そうかな。

ニヤニヤしながら想像を膨らませているとシスターネアが沢山の本を抱えて歩いてきた。


「おまたせしました!」


シスターは よいしょっ!といいながら近くにあるベンチに本を置く。


「早速リアンさんの魔法適性を調べましょう。その結果によって教えることも変わってきますので・・・」

「ふむ!ちなみに属性は何があるんですか?」

「一般的なのは火、水、風、土、光、闇・・・の六種類です。水属性から派生した氷属性やどこにも属さない無属性などもあるので属性自体は無限にありますよ!」

「へぇー夢が広がるな」

「ではリアンさん。私に続いてスペルを詠んでもらえますか?」

「わかりました!」


この世界の文字はまだ勉強中なのでシスターに続いて真似していく。

すると手が少しだけ発光し始めた。


「詠唱は成功したみたいですね。それではこの瓶を手で包んで、手から瓶へエネルギーみたいなものを送るイメージをしてみてください」


こうかな・・・ふんっ!

すると手の光が消えてしまった。


「あれ?消えちゃった・・・」

「大丈夫ですよ。瓶を見てみてください」

「どれどれ・・・」


手を開いて瓶を見てみると中に黒いモヤモヤが渦巻いていた。

えぇ・・・あまりよろしくないものなんじゃないのかこれ・・・


「わぁ!珍しい!闇属性じゃないですか!」

「え・・・闇属性!?・・・なんか物騒」

「でも魔族の召喚ができる唯一の属性なのでかなり希少なんですよ!」

「へぇ~・・・どうせなら火属性が良かったなぁ」

「何故ですか?」

「だってヒーローぽくってカッコよくないですか?」

「そうですか?私はどの属性でもかっこいいと思いますよ!」

「あ・・・ソ、ソウデスヨネ!」


別に俺のことじゃないのにそういわれて少し照れてしまった・・・

笑顔で恥ずかしげもなく言うもんだからつい・・・


「それに、今は闇属性が強くても努力次第では他属性が開花することもあり得ますので!諦めずに練習するのもいいと思いますよ!」

「へぇ!頑張ってみます!」

「その意気です!」


シスターに応援されると本当に出来てしまいそうな不思議な感覚に陥る。

うん。まさに癒しだな。頑張ろう。

俺が癒されている間にシスターは一冊の魔導書を持ってきた。


「それでは次の段階に移りますね。この魔導書には闇属性の簡単な魔法が記されています。今回は低級魔の召喚にしましょう。適性の無い私が読んでも何も起こりませんが適性のあるリアンさんが読むと魔法が発動するはずです。早速私の後に続いて読んでもらえますか?」

「わかりました!お願いします。」


シスターが詠唱を始める。俺もその後に続いて真似していく。

すると、地面に魔法陣が現れて何か出てきた。

これは・・・!


「・・・トカゲ?」

「トカゲ・・・ですね」

「・・・ちっっっっっさ!」

「小さいとは失敬な!!」


・・・ん?今誰が喋った?

シスターの方を見るけど首を振っている。そもそもオッサンみたいな声だったから違うに決まってるんだけど、一体どこから…?


「貴様!我を愚弄ぐろうするだけでなく無視するか無礼者!!よかろう、ならば戦争だ!!」

「え!?お前が喋ってんのか!?」


まさか今召喚したトカゲが喋ってるとは…

俺はしゃがんでそいつをつまみ上げる。


「こら貴様!やめんかコノヤロウ!!離せー!!」

「お前ちっこいクセに生意気だなぁ…」

「ちっこい言うな馬鹿者!!我は常闇の龍王サーヴァルド様だぞ!何故かこちらに呼び出された時に魔力を吸われてしまったが…我が真の力を取り戻せば貴様などゴミクズ同然!!」

「ほぉ?言ったな?じゃあこれでもくらえ!!」

「なに…!?貴様何をす…ギャハハハハハハ!!!やめろ!!やめてくれ!!」


俺は思う存分サーヴァルドとやらの体をくすぐる。


「どうだ!参ったか!」

「ぐ…この程度…ギャハハハハハ!!!わかったすまない!!我が悪かった!!だからやめてくれ!!」

「わかればいいんだよわかれば」


サーヴァルドはぐったりしている。これが龍王?絶対ねぇわ。


「シスター。こいつはどうしたらいいんですか?」

「・・・あ!では契約を申し込んでみましょうか!お互いに同意すれば契約を結ぶことが出来ます。ただ、魔物側もメリットが無いと了承してくれないので人間側は何か対価を払わなくてはいけません。」

「対価か…例えば?」

「基本的には血液や歯、髪の毛など体の一部を差し出すのが一般的ですね。でも魔物によってはお金や宝石、さらに声や才能まで交渉によってはなんでも対価として差し出すことが出来ますよ!」

「なるほど…よし、じゃあサバ!」

「ぬ!?それは我のことか?」

「サーヴァルドって長ぇじゃん。だからサバ。」

「変な名前付けよって…はぁ、もう勝手にしろ馬鹿者」

「おう!じゃあ俺と契約しようぜサバ!」

「何故そうなる!嫌に決まってるだろう!!例え血を差し出されても断るぞ!!」

「うーん、俺お前となら上手くやれそうなんだけどなぁ…」

「我はそうは思わぬ!」

「じゃあさ、これだけ食べてみてくれない?」

「なに?」


俺はポケットから今日のおやつ用に持ってきてた手作り燻製チーズを取り出した。

この数カ月でいろいろ試行錯誤してつい先日やっと完成した自信作だ。


「これは?」

「チーズを木を燃やした煙に当ててかおりを付けたものだよ。燻製って言う製法なんだ。とりあえず食べてみて」

「…ふむ」


サバは警戒しながらも燻製チーズを恐る恐る口に含んだ。

するとみるみるうちに強ばった表情が緩んでいく。


「どうだ?美味いだろ?」

「…なんだこの天にも登る気持ちになる食物は!!我はかなりの食通であるが今まで食べたことのない食感、薫り…」

「だろだろ!!この完成度まで持っていくのにかなり時間かかったんだぜ!!」

「ふむ!貴様、なかなか見込みがあるな。気に入った!!」

「じゃあ…!?」

「もう1つくれ!!」

「おい!!」


結局俺の大事な燻製チーズは全て食べ尽くされ、今後も俺が珍しい食べ物を与える事を条件に契約してくれた。


生意気だけど悪いヤツじゃなさそうだし、話し相手が増えて俺も退屈しなさそうだ。



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