5、初めての村


不思議だ・・・不思議すぎる。



「どこも痛くない・・・」



俺は急いで包帯を外し、くまなく全身を調べた。

いやいや・・・嘘だろ・・・昨日あんな大ケガで動くのもやっとだったってのに傷跡一つないなんて・・・

俺が寝ている間にいったい何が起こったんだ・・・?

考え込んでいるとノックの音がした。


「おはようございます。起きていらっしゃいますか・・・?」


この声はシスターネアだ。


「はい!起きてます」


入りますね、と一言添えてからシスターネアはドアを開けた。


「おはようございます。昨晩はよく眠れて・・・きゃあ!!」

「え!?」

「何してるんですか!勝手に包帯取っちゃダメですよ!!早く戻さないと・・・・あれ、傷が・・・!?」

「いや・・・これは・・・起きたら治ってて・・・」


シスターは目をガン開きにしながら急接近してきて俺の身体をペタペタ触ってくる。え・・・ちょ・・・何でそこも・・・!?絶対そこ関係ないって!!!


「あ・・・あの!!そこは勘弁してくれませんか・・・!!」

「あああごめんなさい!!ケガどころか傷跡でさえないものですから驚いちゃって。でもこんな奇跡初めて見ました!まさに神の御力ですよ!!おぉ・・・神よ、御救い下さり感謝いたします・・・」


シスターは一頻ひとしきり興奮すると天に祈り始めた。

一方俺はお嫁にいけなくなりそうだ・・・。


とりあえず着替えようと立ち上がった瞬間、急激に物凄い空腹が襲ってきた。今まで感じたことのない生命の危機を感じるレベルの飢餓感。

俺は立っていられなくて倒れ込んだ。


「え!?どうされました!?」

「し・・・シスター・・・」

「はい!ここにいますよ!!」

「・・・ハラヘッタ」

「・・・あっ!了解です!」


シスターは足早に食料を取りに出て行った。

シスター。後は任せたぜ・・・ゴフッ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ごちそうさまでした!!」


ふぁ~食った食った~!!

しばらく木の実しか食べてなかったからパンを抱えて戻ってくるシスターを見た瞬間はまさに女神のように輝いて見えた。

パンとスープ・・・この2品だけでここまでありがたみを感じるとは。もう俺は一生メシは残さねぇと誓った。

シスターが片付けをしながら話しかけてくる。


「あの、私ずっと聞き損ねていたのですが・・・」

「はい!なんでしょう?」

「お名前はなんていうのですか?」


私はネア・フリンデルです。とシスターネアが自己紹介してくれる。が、

おーまいが。今のところ全然名無しでも困らなかったから忘れてた。これは正直に話した方が良いかな。


「あー・・・えと。俺名前忘れちゃって・・・思い出せないんですよ」

「え!?あの、なんて言っていいか・・・ごめんなさい」

「いやいや!気にすることないですよ!俺も正直シスターに聞かれるまで名無しなの忘れてましたし!」

「そうなのですか・・・?うーん、でも名前ないの困りますよね」

「そうですね。あ、じゃあシスターが付けてくれませんか?」


おぉぉおおいいいいいい!!!何言ってんだ俺!!シスター絶対困った顔してるよこれ!!!

つい口走ってしまった無茶ぶりにシスターは・・・


「え!いいんですか!?」


凄くワクワクしてらっしゃる。


「じゃあ今日は折角動けるようになったのですし、私に村の案内をさせて頂けませんか?案内をしている間に私があなたにピッタリな素敵なお名前を考えます!どうですか?」

「え!!逆にいいんですか?俺なんかにそんな色々してもらっちゃって・・・」

「いいんですよ!大好きなこの村を知って欲しいという私のわがままですし!村の人たちはみんな優しい方ばかりなのできっとこの村を好きになると思いますよ!」


凄いやる気に満ちるシスターに半ば強引に腕を引かれて俺は外へ出た。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



やっぱり太陽は気持ちいいな!一日外に出なかっただけでこんなに恋しくなるんだもんな。日光すげぇ。

でも外に出た瞬間に察した。ここ日本じゃねぇわ。そもそも地球かも怪しいんじゃね。

だって道行く人みんな鼻がたけぇし髪色が・・・凄いな、めっちゃカラフル。それに剣を持ってる人やら魔法使いみたいな恰好をしている人やらで本当にゲームみたいだ。


「あの・・・ここってテーマパークとかじゃないですよね?」

「テーマ・・・?よくわからないですが、そのような単語は聞いたことないですね」

「ですよね・・・」


これはガチだ。ガチ之助のすけだ。こういうのなんて言うんだっけ・・・異世界転移?転生?

これって本格的に帰れなくなったんじゃないか・・・?いや、まだ俺はこの世界をよく知らない。決めつけるのは早いよな。


「見てください!あれが冒険者さん達がよく泊まる宿屋です!ここルーティア村はモンスターが出没する大森林が近くにあるので冒険者さんが良く中継地として利用するのです。でもほとんど森に入る前の通り道としてしか利用していかないのでルーティア村で登録している冒険者さんは2人しかいないのです。」

「え!?これだけいてたった2人・・・?」

「この村にはよくモンスターが下りてくるってお話ししましたよね。ただでさえ少ない人口。それなのに頻繁に起こるモンスターによる殺傷事件。もう冒険者になる人がこの村には残っていないのです。」

「なるほど・・・でもこれだけ冒険者がいるなら助けてくれたりしないのですか?」

「冒険者はお金で雇うものですからね・・・小さな村を守れる程冒険者さん達も余裕はないでしょう・・・」

「そんなもんなんですかね・・・」

「そんなもんです」


微笑むシスターは少しだけ悲しそうな顔をしていた。

どこの世界も世知辛いな。まぁ、自分の命がかかわることだもんな。わからなくもない。


少し歩くと畑が見えてきた。と、同時に子供たちの笑い声が聞こえる。

すぐこちらの存在に気づいたようだ。


「あ!ネアおねーちゃん!」

「本当だ!ネアおねーちゃんだ!!」


わー!と3人の子供たちが押し寄せてくる。


「こんにちは!3人とも今日も元気ね」


シスターネアは俺に3人を紹介してくれた。

「右からメリア、リリィ、タオ。いつも3人仲良しなんです。」


「ねぇネアねーちゃん!このひとだぁれ?」

「あ、このお兄ちゃんはね、今村を見て回ってるお兄ちゃんだよ」

「むらをたんけんしてるの?」

「お!そうだぞ!ネアおねーちゃんに頼んで探検させてもらってるんだ。お前たちはここで何してたんだ?」

「とうもろこしのおてつだい!」

「とうもろこしもぐの~」

「なるほど!ちゃんとお手伝いしてて偉いなぁ~!」


頭をなでてやるとキャッキャッと無邪気に嬉しそうにしている。

トウキビか・・・少し興味がある。


「俺も少しだけ手伝ってもいいかな?」

「いいよ!」

「おにーちゃんならいいよ~!」


子供たちに手を引かれて畑の中に招き入れてもらった。


「おぉ!これは美味しそうなトウキビだ!地元の思い出すなぁ~」

「とうきび・・・?」

「とーきびてなぁに~?」

「あぁ、俺の故郷ではトウモロコシのことをトウキビって呼んでたんだ。呼びやすいだろ?」

「とうきびよびやすい~!」

「と~きび!」


その後、完璧にトウキビ呼びが定着した。

謎の布教をしてしばらくトウキビの収穫を手伝った後、子供たちとお別れした。


気が付けばもう日が落ちかけている。

最後にシスターとっておきの景色が見れる場所に連れて行ってくれるというので期待に胸が膨らむ。


「こっちです!」

「シスター・・・よくその格好で走り回れますね・・・」

「慣れてますから!」


どうもシスターは見た目に反して体育会系みたいだ・・・俺はついていくのでやっとなのに。


「ここです!あと少し~!」

「はぁ、はぁ・・・待ってください・・・」


何とかシスターに追いつき、前を見てみた。

そこには今日見て回った村が夕焼けに染まっていて、凄く綺麗だ。とても広大な自然に囲まれたシスターが大好きな村。

さらにその奥には大きな街・・・?のようなものが微かに見える。かなり遠いのに見えるくらいだ、よっぽどデカい都市なのだろう。


「ここ・・・綺麗ですよね。」

「そうですね。今日1日でシスターがこの村が好きな理由、よくわかりました。」

「本当ですか!?やったぁ!」


シスターは無邪気に喜ぶ。こういう仕草は同年代って感じするな。

シスターは村を見下ろしながら口を開いた。


「名前、思いつきましたよ」

「え!何ですか?」

「『リアン』・・・絆って意味です。あなたは一つ一つの絆を大切にする方に見えたので」

「リアン・・・いい名前ですね。俺、名前忘れたこと結構ショックだったんですけど、今なら別にいいかなって思えます・・・

「え!何故ですか?」

「だって・・・こんなに素敵な名前を貰えましたから!」


シスターに笑って見せる。すると、シスターも笑い返してくれた。



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