3、俺は誰?
「・・・なんだこれ?」
自分じゃない何かがこちらを見ている。でも、確かに自分のようだ。
俺が首を捻ると相手も捻る、俺が横を向くと相手も横を向く。うん。俺だ。
「はぁぁぁああああああああっ!?!?」
口から破壊光線でも出せそうな勢いで叫んでしまった。
鋭い牙に頬にある無数の赤い線、少し尖った耳に、何より目立つ充血どころじゃない真っ赤な目ん玉。
一言で言うなら、キモい。
何か張り付いてるんじゃないかと思って頬を掴んで伸ばしたりしてみたけど本物だ。
いったい何がどうなってこうなった!?
てかこんなんじゃ人前に出れねぇよ!どこぞの頭おかしいコスプレ野郎って思われて終わりだぞこんなん!!
「こいつ誰だ・・・?」
もう一度まじまじと観察する。
「・・・本当に俺なのか?」
と、ここで俺は重大な問題に気が付いた。
「あれ?・・・そもそも、俺の名前・・・なんだっけ?」
・・・まてまてまてまて!・・・落ち着け俺。
深呼吸だ。深呼吸・・・。
て、落ち着いてられるか!何で今まで気が付かなかった!?自分の名前がわからない、顔も違う、これじゃあどうやって身元証明すればいいんだよ!警察だって頼れねぇよ!!
・・・一旦整理しよう。ちゃんと母さんのことも覚えてるし、父さんのことも覚えてる・・・姉ちゃんや犬のヨシダさんだって隆之のことだって・・・ちゃんと鮮明に覚えている。ちゃんと俺はそこにいた。
なのに何で俺の名前が思い出せない?頭文字やイントネーションでさえ思い浮かばない。
嘘だろ・・・自分の名前が思い出せないなんて異常にも程がある・・・
「はは・・・こんなのってねぇよ・・・」
俺はしばらくその場に
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気が付けば夕方になりかけていた。
今から戻っても途中で日が暮れてしまいそうだ。
とりあえず今日はここらで野宿しよう。
幸いにも周辺には果物がいくつか実っているし、落ち葉もあるから集めれば夜も
もう一度、水面に映る自分を見てみた。なんて酷い顔してんだろ。
「お前、誰なんだろうな?」
水面の中の顔が
今日はなんだか疲れた。明日のことは起きた時考えよう。
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ふむ!清々しい朝だ!
気持ちのモヤは晴れないが、寝たら多少すっきりした。
川の水で顔を洗う。
「ふぃー気持ちいい~!」
昨日寝る前に少し試してみたけど水は綺麗で十分飲めるし、何よりこの暑さの中入る川は最高に気持ちがいい。
「・・・さて、今日も人探しと探索だ」
この見た目だけど、やっぱり人間探しは続行しようと思う。このままサバイバル生活するのにも限界はあるだろうから。
それに、もしかしたら俺と同じ境遇の人間?バケモノ?がいるかもしれないからな。一緒に行動できる奴が一人いるだけでも雲泥の差だ。
して、今日のメニューは川下りだ!
これだけ大きな川だ。川沿いに歩いていけば民家の一つや二つあってもおかしくないだろう。
それに、生き物がいるなら水は必須だろう?きっと俺みたいにのこのこやってくるはずだ!
謎の自信を胸に歩き出してから数時間。川は崖に繋がっていて、下に流れて行っている。
結構高い崖だ。岩もゴツゴツしてて、落ちたら即死かな。
うーん。どうにかして降りたいんだけどな。
足場がないかと崖上でウロチョロしていると崖下の方から人の声が聞こえた。
やっと人に会える!これで助かるかもしれない!!
自分の見た目のことなんて忘れてしまうくらい浮かれてしまっていた。だって本当にうれしかったんだ。
「あのー!すみませんー!!すぅぅうみぃぃいいいまぁぁあああせぇぇえええええええ!!!!」
俺の渾身の「すみません」だ。日本人なめんなよ。
「・・・・!!」
あ!気づいてくれた!!やばい泣きそう・・・
「・・・・!?・・・!!」
は!?ちょっ!待てっ!!何でどっかいくんだよ!?
何か凄い怯えた表情してない!?
とりあえず追いかけないと!こんなチャンス二度とねぇよ!!
「待ってくださいってば!・・・・うわっ!?」
やばっ!!足を滑らせた!!
俺は崖下に急降下する。何度も何度も飛び出てる岩にぶつかって意識が吹っ飛びそうになる。
ガンッ!ガガッ!ゴッ!!
あぁ、これ死んだな。直感的にそう思った。
ドチャッ
凄い嫌な音が鳴って俺の急降下は止まった。
超絶痛い。指先一つも動かせねぇ・・・。
あの人達は・・・もう行っちゃったよな。
まだ何にもわかってねぇのに。せめて、
せめて自分の名前だけでも知りたかった。
「・・い・・!・・・・・さい!!」
あれー・・・人の声が聞こえる・・・
逃げないでくれたのかな・・・少しうれし・・・
「ば・・!そん・・・・け!」
「だめ・・す!!たす・・しょ・」
だめだ・・・もう意識が・・・
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