第一章

2、生き抜き方

あれ?ここはどこだ?


・・・お寺?葬式みたいだけど・・・なんで俺はここにいるんだ。

まて、あれは母さんだ。急いで追いかけないと。


「母さん!待ってくれ!!これ葬式だろ・・・?なんで俺はここにいるんだ?」


聞こえてないのか?


「なぁ!母さんってば!・・・・母さん?」


泣いてる・・・

なんでこんなに辛そうな顔してるんだ・・・あんなに毎日飽きもせず笑ってた母さんがあんな・・・


「姉ちゃん!・・・っ・・・」


姉ちゃんまで、わんわん泣いてる。話しかけれる雰囲気じゃない・・・

遠くの棺の前に父さんの背中が見えた。


「父さん・・・?」


父さんは棺の前でうなだれている。いったい誰の葬式なんだよ。

恐る恐る棺の中を覗いてみた。すると。



『頭から血を流した醜い姿の自分がいた』



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「うわぁぁああ!!!!」



思いっきり飛び起きた。額に汗が滲んでいる。


「は・・・!?夢!?」


まだ心臓がドクドクいっている。あんな悪夢、冗談でも見たくない代物だ。


「ここは・・・?」


少し冷静さを取り戻したところで周りを見渡してみる。

森の中・・・?なんで俺、突然大自然に囲まれてるんだ?それも寒くない。むしろ夏のような暑さだ。


「・・・・・」


絶句するしかなかった。確か図書室で死にかけたのが最後の記憶だ。

それからどう飛躍したらこんな大樹木のふもとに転送されるんだ。


てかケガが治ってる・・・どこも痛くない・・・ということは俺が図書室で気絶してから何か月、何年と経っているかもしれないのか・・・!?そもそもどうして周りに人がいない?いったい何が起こった!?


パニックになり過ぎて思考がグルグル回る。


「そうだ!スマホ!確かポケットに・・・!」


急いでスマホの電源ボタンを押す。


「・・・つか・・・ない」


絶望感が俺を襲った。電話がないんじゃあどうやって助けを呼べと?


「・・・」


5分くらい考えていたがらちが明かない。

俺は考えるのをやめた。


立ち止まってても仕方がない。人を探そう。

少しでも状況を把握したい。そのためには情報が必要だ。



**********************


「おーい!誰かいますかー!!うぉぉおおおい!」


もう何時間経ったろうか・・・人っ子一人いやしねぇ!

そもそもこの森が迷路みたいになってて一度迷うと一生出れないんじゃないかと思わせるくらいの複雑さ!

地元の山でもこんなに入り組んでねぇよ・・・ちょっと泣きそう。

でも流石に泣くどころか命の危機を感じてきた。日が沈む前にせめて寝る場所だけでも確保しないと。

最初目を覚ました場所にあった大樹木。あれの根元に天然の洞穴みたいのがあったからそこでいいかな。

大樹木はこの森の中で一番大きいんじゃないかと思うくらい目立つから、迷子防止にもなる。もしかしたらこの木を目指して人が助けに来てくれるかもしれないしな。


と、ここで歩き回ったせいか腹の虫が鳴り響いた。


「・・・腹減ったぁ」


飲まず食わずで何時間も歩き回ったんだ。流石に限界だ。だが、先程から感じている酷い違和感。

動物の気配がない。虫でさえ見当たらない始末だ。


これだけ大きな森だ。動物や虫の鳴き声が聞こえてきてもおかしくないはず。

静寂が支配している森の中で一人。これほど恐怖に支配される環境はないだろう。


「・・・」


やばい。少し頭がフリーズしかけた。せめて木の実とか、キノコ・・・は危ないからやめておくとして、食料を探そう。俺は大樹木の方に戻りながら木の実探しを開始した。数時間歩き回って気づいたが意外と木の実は沢山実っているみたいだ。


「おぉ、そこそこ集まったな!」


でもあまり見たことない果物ばかり採れた。俺が無知なだけかもしれないけど。

だって紫に黄色い斑点の干し柿みたいなやつ・・・少なくとも隆之たかゆきは知らないと思うぞ。

そもそも食えるかが一番のポイントだけど・・・なかなか勇気がいるな。

と、躊躇ためらっているうちにまた俺の腹の虫が鳴り響く。もう背に腹は代えられないようだ。


ええい!死にさらせぇ!


もぐっ

「・・・うっ」


「・・・まぁ!」


えええなにこれ最高に美味いんですけど!?

完熟マンゴーみたいな濃厚な甘みにリンゴのような優しい酸味・・・こんなに美味い果物初めて食ったわ!!

これは毒なしだな!美味いし!

他のも食えるかな?


もぐっ、もぐっ

「・・・どれも美味い!ここは宝庫かよ!!」


少し塩味が恋しいところではあるけど、どれも禍々しい見た目とは裏腹に最高に美味だ。

先程までのお通夜状態から一変。食べ物の力ってすげーなぁ。


「うわ、もう暗くなってきた・・・」


何かあかりになるものを探してみたが、それらしきものは一切ない。せめてスマホが使えれば普段使わないライト機能をここぞとばかりに乱用してやるのに。


ついに真っ暗になると本当に感覚が失われたかのような錯覚に陥りそうになる。早く寝てしまわないと恐怖に負けそうになる。まぶたを全力で閉じた。

そして襲う無音で真っ暗・・・あれ?


「・・・水の音?」


もの凄く微かではあるものの、ザーという音が鳴っている気がする・・・!

前方!右斜め前!よし!把握したぞ!!

明日は明るくなったらすぐ探検だ。水が確保できるならもう少し長く生きられるぞ!



少しの希望を感じられた俺は疲れ果てていたのもあってすぐ眠りについた。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「うへぇ・・・腰がいてぇ・・・」



早朝から情けない声が漏れるのも仕方がない。それもそうだ、生まれてこの方ふかふかのベッドで人生の半分を過ごしてきたのだ。今までそんな環境を整えてくれていた父さん母さんのありがたみが目に染みる。あれ?俺こんなに泣き虫だったかな。

グッと制服の袖で目をこする。


「よし!早速水分の確保だ!張り切っていくぞ!」


独り言でも黙っているよりはマシだった。やっぱ声に出すことが大事だよな。うん。

昨日大量に手に入れた木の実をポケットに詰め込んで早速歩き出した。

前方右斜め前!たまに立ち止まったりして正確な位置を掴んでゆく。

まさかこの歳でこんな野性味のあふれる作業をすることになるとは。でも結構楽しいな。命かかってんのに。


そうこうしているうちにだんだんと音が間近になってきた。と、同時に涼しい風が流れてくる。

これは滝の音だ。そこそこ大きめの滝だからあんなに離れてても聞こえたんだな。


木々を分け入ってついに滝に到着した。


「うわぁ・・・!すっげぇ涼しいー!」


少し開けた場所にあるこの滝は川になって下の方に流れて行っている。

テンションが最高潮に達した俺は早速滝に近づこうとした。

だが滝の勢いが凄いため、このまま近づくと服がビショビショになりそうだ。

俺は一旦滝から離れた川の方に向かう。


「先ずは飲めるかどうか確認しなきゃだな。もしかしたら魚もいるかもしれないし!」


俺は期待を込めて満面の笑顔で川を覗き込んだ。



「・・・ぎゃっ!?」



俺は驚いて飛び退いた。今化け物が水の中にいた気がした・・・疲れてんのか?

まて、一応武器になるようなものだけ持っておこう。

俺は急いで木の枝を探してきた。


俺は恐る恐る川に近づき、先程と同じように水面を覗いた。


すると、


真っ赤な目をした人型のバケモノが同じくこちらを覗いていた。



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