アイザー・ライフ -異世界から来た俺が魔王-

序章

1、平和な日常、そして崩壊

「うわっ!すごい雪!」


もうそんな季節かー・・・と思いながら恒例行事の準備を始める。


「母さん、雪かきしてくるからスコップ出しといてくれる?俺着替えてくるわ!」

「はいはい、除雪車通ってるから気を付けてね」

「りょうかーい」


そそくさとスキーウェアに着替え、母さんが準備してくれたスコップを手にいざ外へ。

ドアを開けた瞬間、肌に触れる冷気に一瞬怖気づきそうになる。これも毎年恒例だ。


「うわ~・・・今年も多いなぁ。去年超えてそう」


多少悪態をつきながらも俺の相棒スコップ【真田丸さなだまる】を片手に玄関前の雪を葬っていく。

なんでスコップに名前つけてんのかって?知らん、母さんに聞いてくれ。

うちの母さんは昔からモノに名前を付ける癖がある。吹奏楽をやっていた頃の癖だそうだ。なにゆえ。


「よし、こんなもんだろ。後は除雪のおっちゃんに任せればいっか」


さむさむ~!と手に息を吐きながらダッシュで家に帰る。この後も大忙しだ。なんてったってもう一度、この大雪の中を学校まで歩かなきゃいけない。それはまさに雪山で遭難をするかのような過酷さだ。雪山登ったことないけど。


「おかえり!朝ごはん出来てるわよー」

「よっしゃ!マジ腹減った!・・・あれ?姉ちゃんまだ寝てんの?」

「ゆうちゃんまだ寝てるみたい。着替えついでに起こしてきてくれない?」

「はぁ~・・・仕方ないなぁ全く。今度セイコマのチョコクロワッサン奢ってもらわないとだわ」


トットッと階段を上っていく。姉の結子ゆうこは朝が非常に弱い。それでも目覚まし時計8個を一分おきにセットしているおかげか一か月に一度寝坊する程度に収まっている。隣の部屋の俺からすれば壁ドンでは済まないレベルの騒音被害だけどな。


ドアを叩きながら姉ちゃんを呼ぶ。

「姉ちゃーん?起きてる?」

「・・・」

「・・・母さんの豚汁でk」

「おはよう!」


やはり母の豚汁強しってね。姉ちゃんは母さんの豚汁に目がない。俺もだけど。


「姉ちゃん俺に感謝しろよ~?俺が起こさなかったら今日のHRで担任の松山に・・・」

「あーはいはい!わかったから!チョコクロね!!」

「わかってんじゃーん」


さて、姉との謎の意思疎通をこなしたところでアルティメッ豚汁こと、母上の朝食を頂くとするか。

食卓には父、母、姉、俺。そしてペットのヨシダさんこと犬が一匹。

夜に全員で食卓を囲むのは両親の仕事上難しいので、朝は全員で食事をするのが日課となっている。

とても普通の光景なんだろうけど、俺はこのなんの変哲もない毎日が好きなんだ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



やっとのことあの険しい通学路を乗り越えて学校まで行きついた。

マジで何度死にかけたか・・・今日みたいなベタ雪は足が埋まると中々抜け出せなかったりする。

可愛い彼女の一人や二人いれば俺が埋まっても引っ張り出してくれただろうに・・・


そんな妄想をかき消すかのように脱いだ靴から大量の雪が出てきた。靴下もビショビショだ全く。

バシッ!と背中に衝撃が走る。


「オッス!今日雪やばくね?初転びしたわー!」

「なんだ、隆之たかゆきかよ。今日はええじゃん。珍し~」

「かよってなんだよかよって!俺だってたまには早起きするわ!」

「どうせ昨日の放課後に松山に呼び出されたんだろ?」

「うぐっ・・・な、なぜそれを!?」

「いつものことじゃん。本当松山と仲いいよな~」

「仲良くないわっっ!!」


こいつは友人の隆之たかゆき。小学生の頃からの腐れ縁という程でもないが、まぁ長いこと一緒に過ごしてきた親友だ。チャラチャラしているように見えるが意外と優等生タイプで二年でバスケ部の部長だったりする。あと女子からモテる。羨ましい。


「そーえば昨日の地震凄かったな!」

「あぁ、結構揺れたよな。震度4くらい?」

「あれ?もうちょいあったかと思ってたわ。最近多いもんな~ひゃーこわいこわい!・・・あ゛っ」

「え?」

「・・・数学の宿題やってくんの忘れた」

「・・・頑張れ隆之」


・・・そんな窮地に追いやられてる隆之は放っておいて教室へと向かう。今日も沢山の靴下が干された窓を見ながら授業を受けるのかと思うと少し笑えて来た。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



放課後になって更に雪が酷くなってきた。授業は最後まで行われたが、全ての部活動が中止で自宅待機になった。まぁ、俺は帰宅部だから関係ないけどな。

親が迎えに来れる人は迎えに来てもらえって言ってたけど・・・うちの両親は忙しいだろうしこんな吹雪の中呼び出すのも悪いだろう。

姉を頼ろうと思ったのだが姉はとっくの前に友達の車に乗せてもらって帰ったらしい。薄情者。


「あれ?帰んないの?」


隆之だ。


「いや、迎え呼べないからどうしよっかなーって思ってて。隆之はこの後部長会議だろ?部活中止なのに」

「だからだよ。体育館の使用日程が狂っちゃったから他の部長と少しだけ日程会議~」

「あぁ、そっか。頑張れよ~」

「おう!それまで残ってんなら俺んちの車乗せてやんよ!」

「マジ?助かる!」

「じゃあ少しだけ待ってて!じゃな!」

「おう」


助かった。困ったときの神様仏様隆之様ってね。

さて、少しだけ時間出来ちゃったな。暇だし校内探検でもしようかな。といってもあまりウロチョロしてると後々松山に怒られそうだし。

さてどうしたもんか・・・と考えていると図書室のドアが開いていることに気づいた。

図書室ならいい感じに時間を潰せそうだ。普段本を読まないし、たまにはいいかな。


図書室内は案の定閑古鳥が鳴いている。

人のいない教室は不気味でもあるが、結構集中できるしいい場所だとも思う。



「さて何を読もうかなー。意外と奥の方に眠ってる本の方が面白かったりして」



奥の本棚は何年も読まれていないような埃っぽい本で埋め尽くされている。

図書委員も流石にここまでは手が回らないのだろうか。そこそこ・・・いやかなり汚い。


やっぱ新しいのを読もう。そう思いきびすを返した。



その瞬間、もの凄い地響きがして地面が揺れだした。



「は!?・・・え!?」



沢山の古い本たちが俺に間髪入れずに降ってくる。

大きく揺れた瞬間、バランスを崩して転びそうになり咄嗟とっさに古い本棚に掴まったが本棚ごとこちらに倒れてくるのが見えた。

本棚の老朽化が進んでいたからか留め具が外れたみたいだ。右足に激痛が走る。


「ぐぁ・・・!」


本棚の破片が運悪く刺さった。しかしそんなことお構いなしに古本はドンドン重くなっていく。

痛みをこらえて逃げようともがいたけど、どうしよう。こんな一瞬で動けなくなるのか。

心臓が圧迫されていくのがじわじわと伝わってきた。窓も割れたのだろうか。酷く、寒い。


うわぁ・・・本でこんなになるのか・・・凄い・・・苦しいな・・・息が・・・出来ない・・・




「・・・死に・・・たくな・・ぃ・・・なぁ・・・」




目の前が真っ赤に染まったと思ったら一瞬で暗くなった。


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