第42話 助ける理由
「リアさん!」
「危ない、止まれ!」
スライムプールに落ちたアーリアさんを追って飛び込みそうなカナを慌てて止める。
はみ出してくるスライムに気をつけながらいっしょにのぞき込めば、スライムの中に浮かんでいるアーリアさんの姿が見えた。
「待っててください、今すぐ助けます!」
「待つのはカナの方だ。よく見てみなよ。まだ時間はある」
アーリアさんはとっさに防水布で全身を覆ったようだ。スライムの中で手を振る余裕すらあるみたいだ。
ポンチョで体を覆えるとは思えないので、予備で大きいものを持っていたんだろう。以外と抜け目がない。
ただ、空気がどれだけ保つのか分からないので、急いだ方がいいだろう。
駆除薬を作れるアーリアさんがああなってしまった以上、僕がなんとかするしかないだろう。最悪でも、薬を買えばいいだろう。
『絶対ダメデス。拒否しマス。不許可デス。せっかく私たちが一生懸命稼いだ
ピセルが羽をバタつかせる。
気持ちはとてもよく分かるけど、今はそんなことを言っている場合じゃない。人の命がかかっているんだ。
Mはまた後で稼げばいいけれど、今アーリアさんを助けなければ取り返しのつかないことになる。
『ダメデス。城の兵士はすでにダンジョンに順応していマス。魂の魔力変換が期待できない以上、同じだけの魔力を稼ぐには何週間もかかりマス。この先のダンジョンの難易度上昇もありえマスので、絶対に無駄遣いはさせマセン』
無駄遣いじゃないんだけれど、ピセルはそう思ってくれないようだ。天使の価値観が僕らと違うのだろう。人の命をそこまで重要だと思ってない。
『当たり前デス。センパイ以外の人間の命など、魔力源程度の価値しかありマセン。センパイはすでにダンジョンで魂を回収していマス。なのにどうしてセンパイはアレの命を助けようというのデスか。アレがそんなに特別だとでも言うのデスか!?』
そう言われると、ちょっと悩む。僕にとって、アーリアさんの価値はどのくらいなのだろうか。
すくなくとも、見知らぬ兵士よりは大事だ。
兵士も確かに人間だけど、その人は知り合ってもいなかったし、ダンジョンに来るんだから死ぬこともあると覚悟していただろう。
アーリアさんだって、モンスターと関わっているんだから死ぬ危険性は分かっていただろう。そこは同じだ。
でも彼女と僕は知り合いになってしまった。
彼女は今、僕の目の前で死にかかっているし、僕にはそれを助ける手段がある。
できるのにやらなかったら、後で絶対に後悔する。まだ16年しか生きていないけれど、その辛さはよく知っていた。
だから、ただの知り合いでも、僕は助ける。
『……そこまで決めているのなら、仕方ありマセン。でも、駆除薬を買うのはダメです。あれだけ大きなスライムデス、薬が効く前に中のアレが死んでしまうデショウ』
なんだって!?それじゃあダメじゃないか。
『間に合う方法はありマス。ただし、そのためにはセンパイにすっごい無理してもらうことになりマス。すっごく辛くて苦しいデス。死にそうになるかもしれマセン。それデモ、やりマスか?』
やる。そう決意をこめて、大きくうなずいた。
「カナ!僕はこれからすっごい魔法を使う。それに集中したいから、後のことは任せるからね」
「わ、分かりました。アーリアさんのこと、よろしくお願いします。頑張ってください」
カナの応援を背に受けて、ジャイアントスライムに向かい合う。
僕の周囲に、いくつものウィンドウが展開する。僕はそれに、とにかく魔力を注ぎ込む。
あらかじめ買っておいた魔力回復薬を飲んで、回復した魔力を注ぎ込む。
いくつもある魔法の制御は、ピセルに全てお任せする。複数の魔法の並列制御なんて離れ業を文句を言いつつもやってくれるなんて、素晴らしいツンデレ天使だ。
『これは全部センパイのためなんデスからね。いっぱい褒めて感謝してくれていいんデスよ。お礼の言葉は24時間随時受け付け中デス』
ピセルかわいい!最高!愛してる!僕のワガママを許してくれるどころか、助けてれるなんてマジ天使!
だからコンゴトモヨロシク!
『あ愛してるだなんてもう気が早いデスよ。まだ結納だってしていないデスのに。式場はやっぱり天空城がいいデショウか?もう私元気いっぱいめいっぱい張り切っちゃいマスよ!!』
かつてないハイテンションになったピセルのおかげで、ウィンドウに魔力がどんどん吸われていく。
回復した端から魔力が減っていく感覚が気持ち悪いが、弱音を吐くわけにはいかない。
目の奥が痛くなってきたけれど、しっかりと目を見開いて狙いをつける。
こんな大きな目標を外すことはないだろうけど、アーリアさんに当てるわけにもいかない。
必要魔力が溜まったウィンドウから、順番に魔法が行使される。
【肉体強化】【精神強化】【精密制御】
【魔力強化】【魔法威力上昇】【瞬間強化】
【防御低下】【魔防低下】【睡眠付与】
強化と弱体化を盛りに盛って、最高の一撃の準備をする。
僕が今使える魔法は、そこまで強いものではない。だからそれを最高の威力にするために、あらゆる力を注ぎ込む。
『準備は整いました、いつでもいけマス』
呼吸を止めて、狙いを定める。
この一撃が、僕が今できる最高のもの。ピセルとの共同作業だからこそできる魔法だ。
杖をジャイアントスライムに向けて、心で引き金を引く。
「【
放たれた魔法は、まっすぐジャイアントスライムへと吸い込まれた。
次の瞬間、その巨体が脈動する。
スライムに心臓はない、だからそれは、体内で魔法が暴れ回っている証拠だ。
内側からその巨体を引き裂き、貫き、破壊する。
一瞬ごとにジャイアントスライムの巨体が脈打ち、おおきく膨らんでいく。
薄くなった膜の中から、ついにアーリアさんがはじき出された。
落下するそれへ向けてカナが駆け寄り、しっかりと受け止める。
「リアさん、大丈夫ですか?」
「ありがと。でも、まだ大丈夫じゃないかも」
「二人とも、今すぐ口を開けて伏せて!」
見本を見せるためにうずくまると、カナたちも慌てて床にふせた。
その後ろで、風船のように膨らんだジャイアントスライムがついに弾けた。
まるでダイナマイトが投げ込まれた湖のように、あるいはソフトキャンディが入れられたコーラのように、ジャイアントスライムの中身が吹き上がった。
天井まで届いたそれはさらに飛び散り、すっぱい臭いのする物体が辺り一面に散らばる。
魔力を限界まで使い切った影響と相まって、さらに気分が悪くなったが、上がってきたものを根性で飲み込んだ。
ゲーマーファンタジー~天使な彼女とダンジョン攻略~ 天坂 クリオ @ko-ki_amasaka
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