第39話 協力クエスト
僕は王都の下水道に来ていた。
下水道にいる大きなネズミや害虫退治は駆け出し冒険者用の依頼として、ギルドに常時張り出されている。
今回はアーリアとカナがどれくらい戦えるのかを確認するため、そのクエストを受けて来た。
「この程度でお礼になるとは思えませんが、頑張ります」
カナは動きやすい服の上に、急所を覆うように革製の防具をつけている。ショートソードとバックラーを持った軽戦士スタイルだった。
ショートソードには細かな意匠が施されていて、防具と比べて金がかかっているように見える。
バックラーもかなり使い込まれているようで、色あせ方が年期を感じさせる。
「あのコレは父からもらったものなんです。魔術師様のお役に立ってこいと言われたのですが、鎧は合わなくて着られませんでした。貧相な体で申し訳ありません」
『むしろセンパイは貧乳派デスよね』
そう、ステータスだ、希少価値だとKOJIKIにも書かれている。
ない胸を張るのもいいし、ないことを気にするいじましさもいい。わざわざ言うことでもないが当然である。
「そんなの気にしなくていいよ。装備は自分に合ったものを選んだほうがいいし。でもお城ではメイドをやってたけど、戦えるの?」
「はい、これでも昔から父に鍛えられてましたから。心を落ち着けるには武術を学ぶのがいいと言われてるんですけど、まだまだ失敗ばかりしちゃってて。でもでも、今日は失敗しないように頑張りますので、どうかよろしくお願いします」
やる気があるのは間違いないようだ。武装しての動きも自然だし、そこまで心配はなさそうだ。
そう問題は、こっちの錬金オタクのヒキニートだ。いったん家に戻って準備してきたはずなのに、やはり汚れた白衣を着て来ている。なぜかクマのぬいぐるみを背負っているが、その首元に紐があるのでおそらく道具袋だろう。
怪訝な視線に気づいたのだろう。猫背を伸ばして眼鏡を上げながら言った。
「カナちゃんはこう見えて冒険者歴は長いんだよ。登録できる十二歳から働いてて、家計を助けている孝行娘さんなんだから」
なんでカナのことでアーリアさんが威張れるのだろうか。これが分からない。
「ふーんそうですか。ところでアーリアさんは武器を持ってないようですが大丈夫ですか?」
「え、自分?自分はコレが……ってあれどこだっけ?」
白衣のポケットをさぐり、クマの首から手を入れて中をさぐったりしてから、思い出したように白衣の前を開けた。
白衣の下は体にぴったり合った黒い上下で、以外とスポーティーな印象を受ける。猫背だったから気づかなかったが意外と巨乳。そしてなにより、運動不足なのだろうハーフパンツからから出たふとましいふとももは白い。
ふとももは白い。
「あったあった。コレが自分の武器なんで。って、どうしました?」
「ちょっと、珍しかったもので」
アーリアさんが取り出したのは、一冊の本だった。表紙がゴツくて殴られたら痛そうだが、果たしてそういう使い方をするものだろうか。
それが左右の腰のホルスターに一冊ずつ収まっていた。
「よくわかりましたね。これはなかなかレアな本なんですよ。地下図書館に秘蔵されていたと言われるレガリアシリーズの一冊でしてね。クランダーの闇市で見つけた時は目を疑いました。だってレガリアシリーズですよ。地下図書館から散逸した中でもまれにみる実用書であり、特筆すべきはその圧倒的な戦闘向けな内容です。なんとこの【青の書】は写しの写しでありながらその性能は強力な弱体効果を振りまくことにあり……」
長々と続く早口を聞き流しながら心を落ち着けるために深呼吸をくり返す。
そういえばこの世界に来てからずっとダンジョン生活だったし、ああいう色気は久しぶりだったせいでちょっと衝撃が大きかった。
『センパイ、イヤらしいデス』
男の子だもん、仕方ないじゃないか。
カナを先頭に、下水道を進む。
整備された道は意外と進みやすい。明かりは僕が作り出した光の玉を、カナの頭上浮かべている。
大ネズミも害虫もその光を嫌うようで逃げていく。このままでは戦闘訓練にはならなそうだ。
「カゲトくーん。このまま歩いても疲れるだけじゃない?ちょっといい場所知ってるんだけど、寄ってかない?」
アーリアさんが言った。
「いきなり馴れ馴れしくなりましたね。なにか企んでいるんですか?」
「自分はそんな企みなんて、そんな、ないですよ」
ちっとも目を合わせようとしないが、それは元からそうだったのでウソかどうかの区別がつかない。
でもこのままだと不毛な追いかけっこが続くだろうし、アーリアさんが疲れているのは間違いないようだ。
本当に体力ないなこの人。
「いいですよ、行ってみましょう」
「本当に!?やった!じゃあこっちね!」
アーリアさんは力強いガッツポーズをとったあと、元気よく歩き出した。
『信じられマセン。今の言動に何一つウソがありマセン。全て本心からの言葉デスよ。あの人、疲労を完全に忘れ去っていマス』
好きなものは別腹なんだよ。オタクって。
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