第38話 冒険者ギルドでの対談

翌日、魔石の引き取りまでの時間つぶしをかねて冒険者ギルドに行くと、受付の人に声をかけられた。


「カゲトさん、ちょっといいですか?紹介してほしいという方がいるんですけど、会ってみますか?」


冒険者ギルドではパーティーメンバーの斡旋をしているから、声をかけることもあると説明されていた。

ソロよりもパーティーのほうが安全だし、メリットが大きい。ただ僕は普通の冒険者と違って、王城の地下ダンジョンでの活動が主だ。だからパーティーは組めないと伝えてあるんだけれど、どういうことだろうか。


「昨日、ドレーンスライムを持ち込まれたでしょう?その件について聞きたいという方が複数いらっしゃったんです。守秘義務があるのでだいたいの話はその場でお断りさせていただいたのですが、お一人だけ、そういうワケにもいかない人がいまして」


冒険者ギルドが断れない人となると、貴族とか王族とかだろうか。それなら王子様の名前を出せば引き下がってもらえるだろうか。いや騎士団の副団長の方がいいかもしれない。あの王子様は敵とか多そうだし。


『そうデスね。むやみやたらと力を振るいたがる者はどこにでもいます。もしセンパイがそれを厭うなら、私が全部なぎ払って差し上げますが、どうします?』


ピセルが言うと本当にやりそうだから困る。

僕らは人付き合いがイヤだったら、ダンジョンに引きこもることもできる。だからピセルが手を汚す必要はないのだ。


『センパイがそこまで言うのであれば、今回は大人しくしておきマス。デスが、私の準備はいつでも万全なので、どうぞお気軽に申しつけくだサイ』


僕の話ちゃんと聞いてた?


受付嬢に案内された個室で待つこと数分。ドアがノックされた。

いったいどんな偉そうなおっさんが入ってくるかと思いきや、やってきたのは見たことのある顔だった。


「しし、失礼します」


遠慮がちに入ってきたのは、昨日の錬金術店の店主だった。

向かいのイスをすすめると、しきりに恐縮しながら座る。その間、一度も顔を上げず、ずっと足下を見ているようだった。


「アーリアさんですよね。何かあったんですか?もしかして魔石の生成で何か問題ができたとか……」


そう聞いた途端、アーリアさんは急に顔をあげて早口で話し始めた。


「いえいえいえいえ、そっちはバッチリです。ウチのお手伝いさんたちが見ててくれてるので、あとは待つだけでいいんです。それでその、ちょっと時間が空いたのであのドレーンスライムを調べてたんですけど、気になることを見つけたんです。それで是非とも見つけてきた人に話を聞きたいと思いまして、こうして冒険者ギルドで探してもらっていたワケなんですよ」


気になること?ひょっとしてボス部屋で出てきたあのドレーンスライムは、特殊なヤツだったのだろうか。鉱山のダンジョンのヤツじゃないとバレたのか?

いや僕が鉱山のダンジョンで捕まえたと言ったわけじゃないし、たとえお城の地下ダンジョンで捕まえたと分かっても問題はないはず。

落ち着こう、この人は自分の興味に忠実なだけだ。悪い企みをするような人じゃない。


「どんなところが気になったんです?」


「聞いてくれますか!?実はお預かりしたスライムは、なんと百年以上生きていた形跡があったんです。普通のスライムはそこまで長生きをしません。これはとても珍しいことなんです」


「長生き?スライムって分裂増殖するんですよね。別に寿命とか関係ないと思うんですけど」


「よく知ってますね。スライムは分裂すると体積を減らし、時間をかけてまた成長します。その時に体を新しくするのですが、あのドレーンスライムはその形跡がなかったんです。つまり、分裂も成長もせずに百年以上生き続けていたんです。それなのに体質の劣化がかなり抑えられていて、あのままでもさらに数十年は生きれたはずです。ああ、本当に不思議」


うっとりと空中を見つめている。なんだろう、今の僕には理解できない。


「ええと、それで、それが何か問題あるんですか?」


「はい、実は……」


アーリアさんが急に真面目な顔になる。

つられてこちらも緊張してきた。何があるのかドキドキしていると、アーリアさんが口を開いた。


「どこで捕まえたのか、教えていただきたいんです。その場所を調べれば、なにか分かるかもしれません」


えーと、つまりただの興味本位ということだろうか。


『どうしマス?処しマス?』


待て(ステイ)。アーリアさんには仕事をたのんでいるし、これからもお世話になる可能性がある。それに本当のことを言う必要はないのだし、強引な対処はいらないだろう。


「ドレーンスライムを見つけた場所は、ダンジョンの奥の方なので危ないですよ。僕には誰かを守りながらそこまで行く実力はありません。なのでちょっと無理ですね」


「大丈夫です。自分もそこそこ戦えるので、足手まといにはなりません」


うーん、連れて行きたくないと遠回しに言ったんだけど、やっぱりこういう人には直接言わないとダメなんだろうか。自分の興味が強すぎて、察するのが得意じゃなさそうだし。


「錬金術に使う素材を自分で収集したりしてるんです。その方が節約できるので。その時にお手伝いしてもらっている人たちもいるので、ダンジョンでも楽に進めますよ。もちろん費用は自分が全部出します。情報提供料も出せます。どうですか!?」


人数が増えるとか、もっと断りたくなった。


「僕って人見知りするんですよ。なので知らない人と行動するのは遠慮したいですね」


「それなら大丈夫です。ちゃんとあなた、ええとお名前なんでしたっけ?とにかく貴方のことを知ってる人がいます。その人ひとりくらいならいいでしょう?」


僕を知ってる人を知っている?自慢じゃないが、僕はこの世界でも知り合いは少ない。城下町で話した人は、片手で足りるほどだ。その中には冒険者もいたけれど、知り合いと呼べるほど仲良くなってない。

オタクの警戒心をなめないでほしい。


『本当に自慢じゃないデスね』


だろう。僕もちょっと悲しい。

そんなピセルとのやりとりを知らないアーリアさんは、薬ビンを出しながら無邪気に言った。


「貴族街のカナちゃんですよ。彼女、自分のお店の常連さんなんです」

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