第30話 王宮の部屋で朝食を
久しぶりのやわらかいベッドでの寝心地は格別だった。よく寝過ぎて目が覚めた時は自分がどこにいるかわからず、また天井についてコメントしそうになった。
「同じギャグを重ねるのは天丼だっけか」
『センパイ、ナニか言いマシタか?』
「なんでもないよ。それよりも、お腹がすいたよ」
そういえば、昨日は昼食以降は何も食べていなかった。ボス戦の時にお腹いっぱいだと集中できないので、あえて食べずにいてからそのままここまで来てしまった。
『最近小食デスよね。センパイは痩せているんですから、たくさん食べた方がいいデスよ』
「出てくるのが携帯栄養食じゃなければ食べるんだけどね。そういえば、せっかくの王宮なんだから美味しいご飯が食べられるんじゃないだろうか」
呼び出し用のハンドベルを鳴らすと、メイドさんが来てくれた。聞けばちゃんとご飯の用意をしてくれると言う。久しぶりのまともなご飯が食べられることが、飛び上がりそうなほど嬉しかった。
『センパイは贅沢デスね。でもそれくらいで喜ぶのなら、私も料理を習得しマショウか』
「いいね。ピセルの手料理食べてみたいよ」
『まあ、食べたいくらい可愛いだなんて、そんなこと言われても困りマス』
「言ってない言ってない」
ハト状態のピセルが言うと冗談には聞こえない。むしろピセルなら鳥の唐揚げとか手羽先とか、平気で用意してきそうだ。
話しをしながら待っていると、たくさんの料理がワゴンに乗せられてきた。まさにロイヤルな感じで、ちょっと緊張してくる。
メイドさんたちによって食卓があっという間に準備され、その前に座らされた。
鎧姿のミノタウロスも隣に座らされて、料理の説明が始まる。
表面カリカリのフランスパンと、さまざまな木の実のジャム。チーズにバターにハチミツ。
透き通るようなコンソメスープ。ふわふわのオムレツ。
厚いステーキと新鮮野菜のサラダ。
高級ホテルの朝食かと思える物が並べられている。
さて食べようかと思ったところで、ピセルから声がかかった。
『センパイ、ちょっといいデスか?人目がある場所では、ミノタウロスの兜を外さないと言っていましたヨネ?』
そうだった、料理に心を奪われていて忘れていた。
メイドさんたちに頼んで、食事が終わるまで出てもらうことにする。飲み物くらい自分たちで用意できる。
ミノタウロスの兜を外してやり、改めて席に着く。
「さてそれじゃあ、いただきます」
まずはスープを一口飲む。美味しい。長く煮込まれているのか、野菜のダシが出ている。ちょっと味が薄い気もするが、素材の味がより味わえていい。
続いてパンを一口囓る。外側が硬くてかみ切るのに苦労したが、中はふわふわしている。ジャムは素材の味が強く、野性味が感じられた。チーズもバターも味が濃く、思ったよりもワイルドだ。
サラダは採れたてなのかシャキシャキしている。ドレッシングをかけるとさらに美味しい。
オムレツはしっかり作られていて、見た目よりもボリュームがある。醤油もケチャップもないのが残念だが、専用のソースが用意されていて、それがまたオムレツに良く合った。
「こういうのもあるのか」
『さすがは農業が盛んな国家。野菜の質がすごくいいデスね。ミノタウロスも絶賛してマスよ』
言われて見れば、ミノタウロスの前からサラダがどんどん消えていく。草食系かと思いきや、ステーキもすでに半分以上が食べられていた。見ていて楽しくなるような食べっぷりだ。
負けじと僕もステーキにかじり付くが、塊がちょっと大きすぎた。思ったよりも硬くて、かみ切るのに苦労した。
そんなこんなで数十分後、食事を終えて余韻に浸っていた。
「美味しかった。ちょっとクセが強かったけど、それを引いても大満足な食事だったよ」
『たしかに十分に高級な食事ではありマシタね。ですが私は携帯食料の方が好きデス』
ピセルは料理の味が分からないのか?携帯食料ばかりを買い込んだピセルならイエスと答えそうだから恐ろしい。
「ミノタウロスも満足してるみたいだね。食べ過ぎて眠そうにも見えるよ」
ミノタウロスのお腹が、ちょっと膨らんでいるように見える。ずっとハイペースで食べ続けていたし、そうなるのもおかしくないだろうけど。
「さて、お茶も飲んだし、そろそろメイドさんを呼ぼう。それと報酬をもらうためにも王子様に話しをしないとね」
メイドさんたちは食卓を片付け終わると、丁寧に頭を下げて出て行った。
ミノタウロスは鎧を完全に身につけ、待機の姿勢で立っている。しっかりしているし、武器の扱いも上手くなっている。もしかしたら元はしっかりした家の出身だったのだろうか。
『気になりマスか?それなら手の空いている者に調べさせマショう』
「分かるの?それなら、うん、調べてもらおうか。ところで手の空いている者って言ったけど、ピセルは僕以外にも協力者がいるの?」
『もちろん私の妹たちデスよ。センパイが使ってる魔力ショップの品揃えは、私たち天使が管理しているモノデス。魔力ショップのシステムは他の神々にも普及してますので、ご希望なら他の神のショップものぞけますよ』
「神様ってたくさんいるって言ってたよね。それぞれがショップを持っているなんて凄いね」
『いえいえ、持っているのは全てじゃありマセンよ。もちろん利益が出ないとやっていけマセン。なので、他の神々のショップは私たちが管理するものより割高デス。信仰が多い方が利用率も高いので、ショップを持っているのは有名どころだと思って間違いありマセン』
つまり有名な神様の信者なら、一般人も利用できるのか。それはすごいな。以前に確認した時も、魔力さえあらばすごいものが買えたはずだ。それを使えるだなんて、神様も太っ腹だな。
『もちろん一般人が使えるワケはありません。使えるのは高位の神官や、センパイのように神の遣いに選ばれたものくらいデスよ。みんながみんな使えたら、ありがた味も薄れてしましますからね』
「そりゃそうか。魔力を出せば強い武器が買えるんなら、人をたくさん雇える国家や商人が強力な武器を持てちゃうもんな」
『そのとおりデスよ』
数秒、会話が止まる。
『……センパイ、急に黙って、どうかしマシタか?』
「ちょっと思いついたことがあるんだ」
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