第26話 雑魚敵とミノタウロス
王宮地下ダンジョン十二階。
やっと十三階への階段を見つけた。十一階から面倒なギミックが出てくるようになったせいで、攻略速度が少し遅くなっている。
難しいわけじゃない。ただ単に、通路をふさぐスイッチがかなり遠くにあるというだけだ。
最初から全てのマップを埋めるつもりで動いていたから特に問題ないが、早く攻略しようとしていたなら、けっこうなストレスになっただろう。
雑魚敵にも変化が出てきた。リビングドールは色々な武器を持ってあらわれ、それぞれ武器に合わせたトリッキーな動きで攻撃してくる。
今までのスケルトンも色んな武器を持っていたが、動きはそこまで大きくなかったので、対応は難しくなかった。
リビングドールがスケルトンより強いのは間違いない。
それよりも格上であるミノタウロスが負けるわけはないけれど、どうしても傷を負ってしまうのは困る。雑魚でダメージを受けすぎると、カースドドールと遭遇した時に僕の回復魔法に使う精神力が足りなくなる。
精神力が減ってくると、ちょっと気分が悪くなってくる。苦しいわけじゃないけれど、集中力が落ちるのはよろしくない。
その対策として、雑魚戦の場合は僕も積極的に攻撃に参加するようにした。
『センパイが前に出る必要ありマセン。あんな雑魚敵など、いざとなれば私の魔法で粉々にしてヤリマス』
「ありがたいけど、ピセルの魔法はボス戦までとっておきたいかな。ボスを強化させてくないし」
そうやって話していると、目の前の通路にカースドドールがあらわれた。
すぐにミノタウロスを先行させ、僕も支援に入る準備をする。
「そういえば、回復だけじゃなくて支援魔法はないのかな?防御とか素早さとか上げるヤツ」
『ありますけど、使うのデスか?それよりも攻撃魔法で倒す方が早いと思うのデスが』
そういやコイツら天使は脳筋だったな。
戦闘を始めたミノタウロスに回復魔法を飛ばしつつ、ピセルとの話を続ける。
「ピセルたちは魔力が高いから、攻撃魔法の威力が高いのかもしれないけど、僕らはそうじゃないからね。前衛の能力を上げた方が、効率よく戦えるんだよ」
『そうデスか。なら、支援魔法を取得するとしまショウ』
「え、今から覚えるの?」
『ハイ、今まで最高火力の記録を出す目的でしか使っていなかったので、魔力強化以外の支援はさっぱりデス』
今までそれでなんとかなってたってことは、天使モードはそうとう強いってことか。
だとしたら、ピセルの省エネ封印の完全開放にかなりの魔力が必要なのもうなずける。
『そもそも、私は戦闘担当ではありマセンでしたから。索敵とちょっとした攻撃魔法があれば事足りたので、レベルアップによる強化はステータスの上昇に使ってマシタ』
それで魔法攻撃特化になったってことか。
ピセルが筋力に振り切ったムキムキマッチョじゃなくてホッとしている僕がいる。
『ところで、支援魔法はもう使えるようになってますが、どうしマス?』
「すぐに使うよ。えーと、これか。
ウィンドウから支援魔法を使うと、ミノタウロスの動きが目に見えてよくなった。トリッキーな動きにもうまく対応できるようになって、一気に押している。
『
「そんなの使わなくてももう倒せるよ。使うとしたら、雑魚の討伐時間短縮が主目的かな。効果時間も確認しておかなきゃね」
『ウィンドウで確認できマス』
「最初はそれでもいいけど、見ないで支援をつなげるようになるのが目標かな」
そうだ、重ねがけはどうなるんだろうか。
試してみると、効果は重複せず、効果時間がリセットされるだけみたいだ。時間切れ直前に重ねるのがいいだろう。
そんな確認をしているうちに、ミノタウロスがカースドドールにトドメをさした。
動かなくなったカースドドールを目の前にして、ミノタウロスは鼻息を荒くしている。まだまだ戦い足りなそうだ。
この階はマッピング終わったし、どんどん先へ進むとしよう。
できれば今日中に、地下十三階を突破したい。
……なんて思っていた時期もありました。
現在十三階後半。やっと全てのスイッチを見つけ終わった。
色違いのスイッチがいくつも出てきた段階で、なんとなく嫌な予感はしていた。
先に進むにつれ、その予感は的中したとわかる。
進んだ先にある扉は別な色のスイッチに対応していて、解放したショートカットを使って戻り、また別な色のスイッチを押し直さなければいけなかった。
つまりは行ったり来たりのピストン移動。しかもせっかく奥まで来たと思ったら、またカラフルなスイッチが並んでいる。
折り返しの後半戦の始まりに、ちょっと頭が痛くなってきた。
『センパイ大丈夫デスか?おっぱい揉みますカ?』
「羽モフる」
ピセルを捕まえて、その羽毛の手触りに癒やされる。
『いきなりだなんてセンパイ情熱的デス!……ああ、そんな強くするナンテ!』
変な声は聞こえないキコエナイ。僕は今ハトをなでているのだ、決してやましいことはない。
無心でピセルをなでていたら、ミノタウロスが寄ってきた。
何かと思ったら、身をかがめてすり寄ってきた。
「そっか、お前も頑張って戦ってくれてるもんな。おつかれさま」
頭のうしろを優しくなでると、気持ちよさそうに目を細めた。
『センパイ。私の見ている前で浮気デス?』
浮気もなにも、相手はミノタウロスだぞ。男は僕の趣味ではない。
『確認していなかったのデス?この仔は女性、というか女の子デスよ』
「はあ?」
変な声が出た。
ウィンドウでステータスを確認してみれば、確かに【性別:女】と書かれている。
「ミノタウロスって、全部男じゃなかったのか」
『完全なモンスターだったらそうでしょうけど、この仔は事情があるみたいデス』
「事情?」
『そうデス。言いましたよね?モンスターの誕生にはいくつか種類がありマスと』
そういえば、このミノタウロスを召還した時に、【成りたて】だと言っていた気がする。
『報告によると、この仔は元は人だったようデス。それが何かの理由で、モンスターと成ったようデスね』
「何らかの理由って?」
『分かりマセン。この仔を強化していけば、あるいは話せるだけの知能を取り戻せるかもしれませんが、どうしマス?』
そうと知ってしまったら、場合によっては仕方がないと思ってた使い捨てるという選択肢が、完全に消えてしまった。
人がどうしてモンスターにだなんて成ってしまったのか、どうしようもない理由があったのだろうか。
今は考えてもしかたがないし、基本方針は変わらない。
このミノタウロスも、一緒に強くなっていこう。
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